2010年5月30日(日)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 5年前の5月20日、72歳の佐伯俊昭さんは大阪地裁の法廷にいました。原爆症と認めるよう、国を訴えた裁判です▼元朝日新聞記者の長谷川千秋さんが、佐伯さんの姿を『にんげんをかえせ 原爆症裁判傍聴日誌』に記録しています。3時間を超える尋問でした。12の時、広島で被爆した佐伯さん。60代半ばにのどのがんで声を失い、筆談でした▼必死で答えを書き、弁護士が少しずつ読みあげる。裁判長が、被爆時の服装を絵に描けるかどうか聞きます。佐伯さんの答えに、傍聴席がどよめきます。「許可があれば、上半身、裸になりましょうか」▼制する裁判長。長谷川さんは、「文字通り、ケロイド姿をさらして体中で話したかったに違いない」と記します。ちょうど、国連で核不拡散条約(NPT)再検討会議が開かれていました。佐伯さんの尋問から1週間あまり後、会議は終わります。ブッシュ米政権の妨害で前進しないまま▼原告が「核兵器のない世界をつくる礎になろう」(訴状)と誓う裁判を、佐伯さんはどんな思いでたたかっていたのでしょう。佐伯さんは2年前、亡くなりました。原爆症の認定証が届き、5日後に▼時は巡り、2010年再検討会議が終わりました。前回の失敗をばん回し、「核兵器のない世界」へ一歩前進です。“私が生きているうちには実現は無理だろう”というオバマ大統領ですが、被爆者は願います。「核兵器がこの世からなくなるのを見届けなければ、安心して死んでいけません」(谷口稜曄(すみてる)さん)





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