2010年5月28日(金)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 男がなぐる。ける。また、なぐる。相手は抵抗しない。“もういいじゃないか”と叫びたいけれど、向こうは映画のスクリーンです▼桜の花が咲くころみた韓国映画、「息もできない」を今も時々思い出します。主人公の仕事は、容赦ない暴力による借金取り立て。彼は、虐待の末に母を死に追いやった父も許さない。なぐる、ける…▼暴力が“仕事”であり生活でもある彼は、たまたま知り合った女子高生と心を通わせるようになる。彼女の家庭も、暴力で壊されていた。主人公は、少しずつ怒りを和らげ、堅気に変わろうとする▼が、映画はきれいごとに終わらせません。最後の一瞬まで、暴力の因果応報のおぞましさ悲しさをみせつけ、みる者の胸をしめつけます。暴力にあふれていながら、究極の暴力否定の映画です▼上映が始まった日本映画「鉄男 THE BULLET MAN」も、怒りと暴力の連鎖への危機感に満ちています。主人公は、東京で働くアメリカ人。彼は、親から「決して怒りの感情をもってはいけない」と教わり育ちました。が、わが子を殺され感情を抑えられない時がきます▼すると、彼は鋼鉄に変身し、全身が兵器へと化してゆく。彼の出生の秘密には、アメリカ企業の隠された研究があった。そして、彼の憎しみをかりたて、破壊力の利用をもくろむ者が現れるが…。9・11テロ後の世界を、色濃く映す作品です。塚本晋也監督はいいます。「今最も恐ろしいものは、戦争の恐怖が分からない無意識の暴力だ」





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