2010年5月27日(木)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 同僚記者が、おもしろい記録をみせてくれました。先ごろ亡くなった作家、井上ひさしさんの自筆の写しです▼1999年末に本紙が、井上さんと当時の衆院議員、松本善明さんの対談を企画しました。2人の対話の録音を文字におこしたばかりの粗い原稿に、井上さんが直しを入れています。昔のファクス用紙のため、かすれている文字も少々▼微に入り細に入る。直しを一目みての感想です。句読点。「…で」や「…に」の格助詞。時には目こぼしや舌足らずを戒め、念には念を入れ改めます。たとえば、日本の中の東北について語ったところ▼「ただ兵隊さんと娘さんとお米(と出稼ぎ人)は、中央が出せ出せという(。中央からみれば)便利なところだった…」。( )内が補った言葉です。文章がなりわいの作家として、当然の直しかもしれませんが▼親切、ていねい。削る部分は太枠で囲み、等間隔の斜線できれいに塗り消しています。挿入する部分も、整った形の枠の中に、1字1句明朗な文字で書き込んでいます。やや右肩上がりの文字は、丸みをおびておかしみがあり、みていて楽しい手直し原稿です▼みずから「遅筆堂」と称した井上さん。言葉の力を信じた作家の、仕事への執念と苦行が語り伝えられますが、筆跡をみて思いました。苦しみつつ、新しい創造物を世に送り出す楽しみをどこかで味わいながら筆をとっていたのではなかろうか、と。まあ、苦労の中の喜びの発見は、新しい社会をつくる仕事にもあてはまるけれど。





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