2010年5月23日(日)「しんぶん赤旗」
宮崎 口蹄疫被害
後継者できた矢先、1500頭殺処分とは…。
埋める土地ない 支援を
現地から悲痛な声
口蹄(こうてい)疫撲滅のため、関係する自治体首長は21日夜、日本初のワクチン投与を受け入れました。同日中に、高鍋町で口蹄疫の疑いのある牛が見つかり、西都市、木城町でも新たに発見されました。発生農場から半径10キロ圏内は3市5町に広がりました。目に見えない敵・ウイルスとのたたかい。疲労感は、市民生活にまで及んでいます。高鍋町、川南町からリポートします。(阿部活士、中沢睦夫、内田達朗)
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高鍋町で
「宮崎牛」ブランドを支える種オス牛を管理している宮崎県家畜改良事業団が感染した高鍋町。21日には、改良団近くの畜産農家にも感染が飛び火しました。「自主消毒」として町職員や住民らが24時間態勢で感染防止に懸命です。
消毒作業に参加した日本共産党の中村末子町議は、「町で一戸でも発症したら、すぐに全車両を義務づける法定消毒にしないといけなかった。現行法は不備だ」と話します。
数日前に口蹄疫の疑いがある牛が見つかったAさん(60)。繁殖用母牛と肥育牛あわせて1500頭以上を飼っていました。「きょうもお産が4頭あった。病気になり、かわいそうで…」と、電話口で声を詰まらせます。牛のえさは、1日30万円ほどかかります。
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Aさんは妻と息子(36)夫婦、従業員とともに37年間牛を増やしてきました。「やっと後継者ができ、設備投資も終わった矢先に」と声を落とします。しかし、自分を奮い立たせるように「でも必ず再建します」と語ります。
しかし、Aさんは1500頭もの牛を殺処分して埋めるといっても、土地は「なかなか探せません」。自分の牧草畑は点在しており周囲に民家があります。行政に相談しても、農家の土地確保が前提との姿勢です。「昔は10頭も飼っていれば多いほうだった。自分の農地に埋めることもできたが、いまはみんな大規模だ。法律は現状とはなれすぎている」とAさんは告発します。
川南町で
「いつまでこの生活が続くのか、先が見えない」との声が広がる川南町。蓑原敏朗副町長は「農業は、町の経済の6〜7割を占める主要産業です。口蹄疫の拡大が町の経済へ与える影響は大きい」といいます。
図書館や公民館など各公共施設は使用を休止。イベントも次つぎと中止に。町民の足「フロンティアバス」も運行路線の縮小を余儀なくされるなど、日常生活に影響が出ています。
殺処分した家畜を埋める埋却のための用地確保が課題になっています。
蓑原副町長は、「自分の土地に埋めた人と新たに土地を購入した人など農家の間で不公平感がある」と指摘。「すべての埋却地を買い取るなど国の責任で対応をしてほしい」と訴えます。
町民からは「首相が『非常事態宣言』を出して、国が本腰をいれて対応するべきではないのか」との声もありました。
「心ひとつに 立ち上がろう!」。21日昼、町役場に1枚の横断幕が掲げられました。川南町観光協会が急きょ作製したものです。
同協会の小玉忠洋会長はプラス思考で乗り切ることが大事だといいます。「すでにイベントの中止などの影響が出ています。町の経済が落ち込み、観光も落ち込むかもしれません。しかし、今は、これ以上被害が広がらないよう抑え込むことが大事。それに、農家のみなさんの生活を守らなくてはなりません」
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