2010年5月22日(土)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
佐渡島の野に放たれたトキたちの、仲間をふやす道はけわしい。愛の巣をつくったつがいが留守の間に、またしてもカラスが卵を持ち去りました▼日本のトキは、人間に追いつめられ滅びました。しかし、ひとくくりに人間のせいというのには抵抗を覚えます。たとえば、農薬がトキの好物のドジョウや虫を絶やしトキ自体の体も侵すと分かったとき、立ち上がった人たちがいます▼40年ほど前。佐渡島の野浦部落の婦人学級の女性たちは、トキのえさ場には農薬をまかないと決めました。朝早く坂道を登りつめた山中の田んぼへ行き、いっせいに素手で草をとる。ときには命がけでマムシとたたかう作業でした▼政府の減反政策で休耕田が広がると、トキのえさ場は消えてゆきました。すると、えさ場として田を耕す人も現れます。“トキじいさん”とよばれた佐藤為二さんも、そんな一人です。佐藤さんは冬も、家から遠い雪深い山中のえさ場へ、えさを運びました▼鳥やけものはもちろん、草木もいつくしむことができる人間。やはり、同じ生命をもつものへの共感でしょう。きょうは、国連が定める「国際生物多様性の日」です。数十億年前に誕生した生命は、色とりどりの、形も大きさも違う、一説には1000万種もの生物へと進化しました▼しかし、地球の仲間への共感だけではすみません。人間にえさを奪われ滅んだトキが、明日の人間自身の姿でなければいいけれど。私たちも、豊かな生命の恵みなしには生きられないのですから。