2010年5月21日(金)「しんぶん赤旗」
主張
1〜3月期GDP
「着実な」回復には程遠い
今年1〜3月期の実質GDP(国内総生産)の成長率はプラス1・2%、年率に換算してプラス4・9%となりました。
家計消費が年率1・3%増、設備投資が同4・2%増となったほか、輸出が同30・5%増と大幅に増加しています。
菅直人経済財政・財務相は記者会見で「景気の着実な持ち直しを反映している」とのべました。
後に待つマイナス圧力
実質GDPがプラスになるのは4期連続です。しかし、その内容を見れば、とても「着実な持ち直し」とは言えません。
自動車や電機など大手製造業は利益を急回復させています。主要企業の3月期決算で浮き彫りになっているのは、急回復の最大の要因が人件費や下請け単価の圧縮による経費削減にほかならないということです。
大手製造業はこれまで以上に労働者・中小企業から所得を吸い上げています。下請け中小企業の従業員の家計を含めて、大企業から家計に利益が回るどころではありません。こんな状態で輸出が伸びても、一時的に残業代が増えるぐらいが関の山です。
エコカー減税や家電のエコポイントがGDPのプラス成長に大きく働いたことは、政府も認めている通りです。こうした期間限定の需要喚起策は、「今のうちに買っておこう」という需要の前倒し効果で消費を増やすだけです。対策の期限が切れたら、前倒しの反動による冷え込みが待っています。家計の所得増加が見込めない現状では、なおさら期限切れ後の落ち込みが心配されます。
経済成長率が高めに出ている背景には、「景気の循環メカニズム」の強い作用があると「みずほ総合研究所」のリポートが指摘しています。トヨタをはじめとする大手製造業は、リーマン・ショック後の経済危機に際して製品在庫を一気に削減しました。現在は、その在庫を復元する過程にあって、それが景気を予想以上に押し上げていると分析しています。
「循環的な回復力」はやがて衰えていきます。エコポイントなど需要喚起策の期限切れとあわせて、景気には強いマイナスの圧力が待っています。
これを「着実な持ち直し」と言うのは、ひどい“誤診”です。
リーマン・ショック以前の10年間の日本の名目GDPは、わずか0・4%しか増えませんでした。日本経済の成長を止めたのは、正社員を非正規に置き換え、下請け単価を買いたたいて国民の所得を吸い上げ、内部留保を蓄積してきた大企業の行動です。政府も昨年末の「新成長戦略」で、自公の「構造改革」が「選ばれた企業のみ」に富を集中させ、中小企業の廃業を増やし所得の低迷を招いたと分析していました。
大企業の行動を変えて
大企業の身勝手な行動は何も変わっていません。
富を独り占めにする大企業の行動を変えさせることができるかどうか、そこにこそ日本経済を健全な成長軌道に乗せられるかどうかの最大のポイントがあります。
大企業に雇用への社会的責任を果たさせると同時に、中小企業との公正な取引を実現する当たり前のルールをつくり、社会の力で大企業の身勝手な行動を変えさせる必要があります。