2010年5月18日(火)「しんぶん赤旗」
主張
NPT報告草案
意義ある前進を具体的成果に
国連本部で開かれている核不拡散条約(NPT)再検討会議で、実質議論のたたき台となる3主要委員会の報告草案がそれぞれ明らかになりました。「核軍縮」が議題の第1委員会の草案は、期限を切った核兵器廃絶を目標とし、その行程表を検討する国際会議の開催を呼びかけるなど、廃絶に向けた具体的な前進につながる内容を盛り込んでいます。
前進につながる内容
草案は、2000年のNPT再検討会議の成果である、核兵器保有国が自らの核兵器を完全に廃絶するとの「明確な約束」を再確認するところから始めています。05年に開かれた前回再検討会議が最終文書に合意できず失敗に終わったことを踏まえ、議論の出発点を明確にしたものです。
「核兵器のない世界」の達成に向けたオバマ米政権をはじめとする各国政府や市民社会の諸提案を歓迎するとして、廃絶への機運が00年当時と比べても高まっていることも指摘しています。これらによって、核兵器を廃絶する政治的合意の確認を求めるものとなっています。
そのうえで、草案は核兵器の廃絶を「一定の定められた期限内に達成する必要」で合意する、と指摘しています。核兵器廃絶を永遠の将来に先送りする「究極廃絶」はもちろん、「核兵器のない世界」の実現は「(自分が)生きているうちには無理だろう」というオバマ大統領の考えにもくみしない姿勢を明確にしています。
こうした立場から草案は26項目の行動計画を示し、具体的な時間枠にも言及しています。(1)保有国は11年までにあらゆる核兵器の削減など核軍縮を具体的に前進させる協議を開始する(2)協議の状況を12年にNPT加盟国に報告する(3)国連事務総長は14年に「核兵器完全廃絶を具体的な時間枠のなかで達成する行程表」に合意する手だてを検討する国際会議を招集する、としています。廃絶をめざす時間枠を示した提案は政府レベルの国際交渉では初めてです。
交渉の方向を提示した草案は、期限を切った核兵器廃絶に向けての交渉の開始を求める世論が、世界で広範な支持を得ていることをはっきり示しています。政府レベルでは、核兵器の廃絶を求めてきたスウェーデンやブラジルなど「新アジェンダ連合」や非同盟運動の主張を反映しています。
日本の原水爆禁止運動をはじめ世界の反核世論が背中を押し、廃絶の世論が世界に受け入れられつつあることを示しています。日本原水協の代表団は開会前日、690万人分の「核兵器のない世界を」署名を、再検討会議のカバクチュラン議長とドゥアルテ国連上級代表(軍縮担当)に届けました。
草案を足がかりに
日本共産党の志位和夫委員長は現地でカバクチュラン議長や第1委員会のシディヤウシク委員長らと会談し、00年の「明確な約束」の再確認と、核兵器廃絶のための国際交渉を開始する合意をつくるよう求めました。
草案は出発点であって、会議がこうした内容で合意できるかどうかは予断を許しません。核拡散問題などで意見対立があるもとでも、核兵器廃絶を求める国際世論を反映した草案を足がかりに、会議が積極的で具体的な成果をあげることが求められます。
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