2010年5月17日(月)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 その写真は、真っ青な空の向こうに白い雲が浮かび、かなたの山かげに向かって農道が一本、まっすぐに走っています▼「明日は自由主義者が一人この世から去って行きます」という所感を残し、22歳の若さで特攻死した上原良司の故郷、長野県安曇野の風景です。カメラマンの安島太佳由さんが東京・新宿で開いている写真展「上原良司と特攻隊」にかかる1枚です▼写真の解説文にこうあります。「良司が故郷に最後の別れに来たのが1945年4月。『さようなら、さようなら、さようなら』と三度も言った。家族に。故郷に」▼鹿児島の知覧基地から沖縄方面へ飛び立つ1カ月前のことでした。良司は特攻の件は家族にも明かしません。なにげなく顔を合わせた末の妹・登志江さんに「死んでも靖国へは行かないよ。天国に行っているからね」と語ったそうです。写真展開催中に開かれた安島氏の講演会に駆け付けた登志江さんが話しました。そして「さよならを3回私たちの前で言ったことが忘れられません」と言って目頭を押さえました▼こんな美しい田園風景を見ながら、死ぬことを自分に納得させていた青年の心境はどのようなものだったか。想像をかきたてられる1枚です▼「信念をもって、勇気をもって生きよ。心中満足できたといえる人生を送りたい」。それを信条に戦跡を撮り続けて15年になる安島さん。「良司はそれを国を相手にやった。かなわない」。写真展はアイデムフォトギャラリー「シリウス」で26日まで。





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