2010年5月14日(金)「しんぶん赤旗」
世田谷国公法弾圧事件
控訴棄却の不当判決
東京高裁 「堀越」判決に逆行
2005年の衆院選挙中に「しんぶん赤旗」号外を配ったことが国家公務員法に違反するとされた元厚生労働省職員、宇治橋眞一さん(62)の世田谷国公法弾圧事件の控訴審判決が13日、東京高裁であり、出田孝一裁判長は「政党機関紙配布の禁止は合理的で、憲法に違反しない」と、弁護側控訴を棄却し、罰金10万円の不当判決を言い渡しました。弁護側は即日上告しました。
判決は、ビラ配布の内容を検証して逆転無罪判決とした国公法弾圧堀越事件の東京高裁判決から、大きく逆行する異常なものとなりました。日本共産党の市田忠義書記局長は、「時代に逆行したもの」との談話を発表しました。
判決は「政党機関紙の配布は党派的偏向の強い行動類型に属する」としてビラ配布を「違法性の強い行為」と一方的に決め付けています。
宇治橋さんの行為は、休日に職場と無関係の場所でのもので、外見から国家公務員とはわかりませんでした。しかし判決は、国家公務員のビラ配布で具体的に被害があろうとなかろうと「行為のうちに危険が擬制(あると見なすこと)されている」と、国家公務員の政治活動を制限した国公法を「合理的」としました。
出田裁判長は、36年前の猿払事件最高裁判決についても、その後、飛躍的に発展した国内外の人権法にかんする理論をふまえることなく「すべてについて見解を同じくする」と、安易に踏襲しました。
判決後、宇治橋さんは「言論表現の自由は国民みんなに認められている。きわめて悪らつな判決。最高裁で無罪を勝ち取り、国家公務員の表現の自由を満たさなければならない」と語りました。
解説
「世界標準」と向き合え
世田谷国公法弾圧事件の不当判決は時代錯誤で、民主主義の精神とは、ほど遠いものです。国公法弾圧堀越事件の東京高裁(中山隆夫裁判長)の逆転無罪判決と比べても、大きな隔たりがあります。
堀越事件の東京高裁判決では「表現の自由は国民の基本的人権のうちでも特に重要なもの」と、憲法を柱にすえ、ビラ配布に刑を科すことは憲法21条に違反するとしました。
ビラ配布は、誰もが簡単にできる基本的な表現活動です。ところが、世田谷事件判決では「違法性の強い行為」と決め付けられ、表現の自由について考慮しようともしていません。
さらに、公務員の政治活動を放任すると「政治的党派による行政への不当な介入のおそれ」があると偏見に満ちて断定。その「予防的な制度的措置」のために、国公法は合理的としています。そして1974年の猿払判決を「社会情勢の変化を踏まえても、改めるべき点はない」と擁護しました。
日本の国公法は、国家公務員の政治活動を広く制限し、それに刑事罰を与えています。勤務時間外の活動は原則自由で、違反しても刑事罰でなく懲戒処分になるフランスやドイツなど欧米諸国と比べて異常です。
これを踏まえ、堀越事件判決は「世界標準」の視点で、「整理されるべき時代」としたのに対し、世田谷事件の出田孝一裁判長は「諸外国の例は、日本と政治的力関係や社会的諸条件が異なる」と、“鎖国”を思わせる発言で廷内の失笑を買いました。
言論表現の自由という、民主主義の根幹にかかわる両事件は、最高裁に上告されました。最高裁は「世界標準」にどう向き合うのか―。大法廷での真剣な審理が求められます。(矢野昌弘)
■関連キーワード