2010年5月14日(金)「しんぶん赤旗」
鳩山政権 「抑止力」で金縛り
普天間問題 自公路線に逆戻り
迷走、逆走の末、辺野古へ逆戻り―。米海兵隊普天間基地(沖縄県宜野湾市)の「移設」問題で鳩山政権は12日の日米実務者協議で、米海兵隊キャンプ・シュワブがある同県名護市辺野古沿岸部の浅瀬に「くい打ち桟橋(QIP)方式」で代替新基地を建設する案を提示しました。普天間の「国外、最低でも県外」への「移設」という公約を投げ捨てた鳩山政権は、辺野古に新基地を押し付けようとしてきた旧自公政権の立場に完全に逆戻りしました。(榎本好孝)
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鳩山政権が自公政権の立場に回帰してしまったのは、「海兵隊=抑止力」という立場に縛られ、その維持・強化に固執しているためです。
米側は、海兵隊の即応態勢を維持するため、航空・地上・兵たんの各部隊の一体運用を重視し、それぞれの部隊を「65カイリ(約120キロ)以内」に配置する必要があると主張しています。地上部隊がいる沖縄本島から約200キロ離れた鹿児島県・徳之島に普天間のヘリコプター部隊を移転する案を拒否しているのも、このためです。
鳩山政権は沖縄の基地負担軽減策として鳥島・久米島両射爆撃場の返還を検討していました。しかし、結局、代替地の確保が困難だとして米側への提案を断念したと報じられている(「朝日」13日付)のも、海兵隊をはじめ米軍の即応能力を維持するためです。
沖縄の負担軽減よりも、米軍の「抑止力」が絶対なのです。
もともと、鳩山政権が提示した、辺野古沿岸部の浅瀬に普天間代替基地を建設する計画は、自公政権時代の在日米軍再編協議で、米側が、地上・航空部隊の一体運用の観点から「より高い軍事的能力を得られる」(2005年9月、ローレス国防副次官=当時)と評価し、実現を強く求めていた案です。
結局、当時は、キャンプ・シュワブ陸上部への新基地建設を主張した日本側と折り合わず、紆余(うよ)曲折のあと、シュワブ沿岸部にV字形の2本の滑走路を造る現行案(06年5月に日米合意)になりました。
当時、米側が求めていたのは「埋め立て方式」でしたが、辺野古沿岸部の浅瀬に建設するという点では、鳩山政権は、米側がかねてから主張し、受け入れやすい案を提示したことになります。
しかも、海兵隊は、普天間代替基地に最新鋭の垂直離着陸機MV22オスプレイを12年から配備することを明らかにしています。墜落のリスクを気にせず自由勝手に運用できる点で、辺野古沖の浅瀬案は「より高い軍事的能力」をいっそう増強するものです。
一事が万事、米軍の軍事的所要を優先する鳩山政権の姿勢に、沖縄県民の怒りが渦巻いています。
くい打ちも自然を冒瀆
普天間基地「移設」問題で鳩山由紀夫首相は「辺野古の海が埋め立てられることは自然に対する冒瀆(ぼうとく)と感じる。受け入れるという話はあってはならない」(4月24日)と述べ、埋め立て方式を拒否する考えを示しています。
しかし、くい打ち桟橋(QIP)方式も、自然環境に与える影響は、埋め立て方式と変わりません。
QIP方式は、1996年12月の「沖縄に関する日米特別行動委員会」(SACO)の最終報告で普天間代替基地の工法として浮上。その後、政府や沖縄県などによる「代替施設協議会」(2000年8月設置)で検討され、結局、採用されませんでした。
当時の検討によると、辺野古沿岸のリーフ(環礁)内の浅瀬に建設する場合、滑走路などの上部構造物を支えるくいを海底に8750本(直径1・3または1・5メートル)も打ち込む必要があるとされました。(建設費約4800億円)
辺野古の海は、絶滅が危惧(きぐ)されている国の天然記念物ジュゴンの重要な生息域です。12日にも地元テレビ局がキャンプ・シュワブから約4キロ離れた海域をジュゴンがゆったりと泳いでいる姿を放映しました。
辺野古沿岸のリーフ内には、ジュゴンのえさ場となる藻場が豊富に存在します。QIP方式によって失われる藻場は約84ヘクタール。東京ドームの約18個分にもなります。これこそ、「自然に対する冒瀆」ではないのでしょうか。
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即時撤去の要求は当然
沖縄の米海兵隊は、海外の紛争に真っ先に出動する軍事介入の先兵=海外“殴り込み”部隊です。日本の平和と安全のための「抑止力」などではなく、「侵略力」そのものです。
しかも米国防総省の資料によると、部隊が駐留する米海兵隊基地があるのは米本土以外では日本だけです。さらに、米海兵隊員の駐留数(09年12月末現在)も日本が1万7009人と突出。次に多いのはフィリピンの429人です。(表)
米海兵隊を自国に駐留させ、その「抑止力」に頼っているのは世界で日本だけなのです。その「抑止力」も実は「侵略力」なのですから、沖縄県民が普天間基地の即時撤去、海兵隊の撤退を求めるのは当然です。