2010年5月11日(火)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 NHKの連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」が面白い。終戦から16年後の東京が舞台の漫画家・水木しげるとその女房の赤貧物語。貸本業界は斜陽を迎え、しげるは悪友から「勇ましい戦記漫画を書け」とはっぱをかけられます▼でも、しげるには書けません。戦争がどんなにみじめなものか、身をもって知っていたからです。ニューギニア戦線で左腕を無くしたしげるは、「自分はまだいい。戻って来られんかったものも、ようけおる」と女房に語って聞かせます▼信州に出張の折、戦没画学生の絵を集めた美術館「無言館」を訪ねました。自画像や母、妻といった自分の愛する人を題材にした、生命がほとばしるような絵の数々。生きていれば水木さんと同年代です▼ニューギニアで戦死した伊沢洋さんは「家族」の絵を残しています。紅茶や果物が並ぶ食卓で家族がくつろぐ絵は、実は貧しさを覆い隠した「空想画」でした。一家の誉れの息子は亡くなり、代わりに戻ってきたのはニューギニアの砂。しかし、家族はそれを遺骨がわりに線香をあげます(窪島誠一郎著『傷ついた画布(カンバス)の物語』)▼中村萬平さんは身重の妻の裸像を描きました。妻は出産後、死去。生まれてきた息子の元には、亡き父の絵と絵の中の母が残されます。彼らの生きた証しです▼小柏太郎さんの手帳には、「食べたいもの」が書き連ねてあります。ゾーニ、ボタモチ、テンプラ、ウナギ…。書くことで食べたつもりになったのでしょうか。水木さんも、食べることには貪欲(どんよく)です。





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