2010年5月10日(月)「しんぶん赤旗」

鳩山首相は“思いに至った”というが…

「海兵隊=抑止力」は本当か

「普天間」問題


 米海兵隊普天間基地(沖縄県宜野湾市)の「県外・国外移設」の公約を撤回し、沖縄県への新基地建設と、鹿児島県徳之島への海兵隊訓練移転を押し付けようとする鳩山由紀夫首相。「学ぶにつけ、沖縄に存在する米軍全体のなかで、海兵隊は抑止力が維持できるという思いに至った」(4日)といいます。首相が言う「海兵隊=抑止力」というのは本当なのか、考えました。(政治部安保外交班)


Q そもそも、どんな部隊

A 敵陣強襲 “殴り込み”

図

 海外に真っ先に出動して上陸作戦を遂行し、橋頭堡(きょうとうほ)を築き上げる軍事介入の先兵―。これが、海兵隊です。「抑止力」でもなんでもなく、「侵略力」そのものです。

 揚陸艦に乗り、ホバークラフト(エアクッション型上陸用舟艇)やヘリコプターを使って敵陣に上陸し、襲いかかる“殴りこみ”部隊であり、相手国の武力攻撃に対する防衛部隊ではありません。

 海兵隊の任務を規定したアメリカの法律でも、海外での「上陸任務」が第一義的任務だとされています。

 1982年4月、当時のワインバーガー米国防長官は「沖縄の海兵隊は日本の防衛(任務)には充てられていない」と明言しています。(米議会への書面での証言)

 アメリカの海兵隊は実戦部隊のすべてを三つの海兵遠征軍に組織しています(図)。つまり、すべての実戦部隊が海外「遠征」部隊なのです。

 このうち第1、第2海兵遠征軍は米本土にいるのに対し、第3海兵遠征軍は沖縄と岩国(山口県)を中心に駐留しています。これは、唯一、日本に海兵遠征軍が置かれているということであり、世界でも類例のない異常な事態です。

 「日本防衛」とは無縁な沖縄の海兵隊は常時、イラクやアフガニスタンでの戦争に部隊を派遣しています(表)。2004年、数千人の市民を殺害したイラク・ファルージャへの総攻撃作戦でも、沖縄から派遣された部隊が最前線に立ちました。

 普天間基地のヘリコプター部隊も出動。その直前には、イラクへの出発予定日に間に合わせるためのずさんな整備が原因で、沖縄国際大学構内への墜落事故も起こしました。

 同時に、沖縄の海兵隊は、オーストラリアやフィリピン、タイ、韓国などアジア・西太平洋全域で年間70〜80回もの2国間・多国間演習を実施しています。多くの部隊が沖縄を不在にしているといわれます。

図

Q 「北朝鮮や中国が不安」の声も

A 軍事的緊張高め百害あって一利なし

写真

(写真)沖縄・米軍普天間基地(宜野湾市役所提供)

 沖縄に海兵隊がいることは周辺地域の軍事的緊張を高めるだけであり、百害あって一利なしです。

 北朝鮮の問題では、同国をはじめ米国、中国、ロシア、韓国、日本の「6カ国協議」の枠組みを、困難はあっても復活させ、平和的な解決に努力を尽くすべきです。

 柳沢協二前内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)は、北朝鮮の経済・軍事的な実情からいって「1950年の朝鮮戦争のような戦争はまずあり得ない」と分析します。(4月20日の講演)

 防衛省作成の『防衛白書』によると、韓国に駐留する米軍の総兵力は10年間で約3分の2減の2・5万人に激減しています。しかも、米国は在韓米軍を朝鮮半島に常時張り付けるのではなく、それ以外の地域にも派遣する方針をとっています。

 それなのになぜ、朝鮮半島「有事」を口実に、沖縄の海兵隊を維持し、普天間基地に代わる新しい基地をつくらなければならないのでしょうか。

 中国問題もそうです。台湾海峡「有事」の危険をあおり、海兵隊の沖縄駐留を正当化する議論も一部にあります。しかし、海兵隊が台湾に上陸して中国軍と直接たたかうとなれば、それは米中間の本格的な戦争を意味し、核兵器の使用にもつながる最悪のシナリオです。

 日本が海兵隊の出撃を認めれば、軍事介入に加担することになり、「一つの中国」という政府の方針にも反します。なにより、これまでとは比較にならないほどの深まりをみせている米中、日中間の経済的相互依存関係を考えれば、破滅的な軍事的対応をとることは決してできないはずです。

Q 日本の安全はどう守る

A 9条にもとづき平和的な環境つくる

 日本の安全を守るためには、軍事力による脅しではなく、憲法9条に基づいて平和的な国際環境をつくることがもっとも重要です。

 紛争の平和的解決や武力行使の禁止などを掲げた東南アジア友好協力条約(TAC)が52カ国に広がり、日本・中国・米国なども加入しており、軍事同盟は過去の遺物になりつつあります。

 ライシャワー駐日米大使の特別補佐官を務めたジョージ・パッカード米日財団理事長は「専門家の中には、そもそもなぜ沖縄に海兵隊が必要なのかと鋭い疑問を問いかける者もいる。海兵隊が対抗しようとしている脅威は何なのか」と、根本的な疑問を投げかけています。(米誌『フォーリン・アフェアーズ』3月号)

 そもそも米側は「日本防衛を主要任務とする在日米軍の主要部隊は一つもない」と繰り返し表明しています。とりわけ、海兵隊は他の部隊に先駆けて真っ先に海外に侵攻する部隊です。「日本防衛」とは無縁です。

 日米両政府は、今こそ「海兵隊=抑止力」という呪縛(じゅばく)から抜け出し、普天間基地の無条件返還という決断を下すときです。

Q 「地政学的に不可欠」というが

A 沖縄に居座るための方便にすぎない

 「地政学的位置」というのは、沖縄に居座るための方便にすぎません。

 そもそも、海兵隊が最初に日本に配備されたのは本土の岐阜県や山梨県などでした。同時期に本土で基地闘争が盛り上がり、行き場がなくなった海兵隊が50年代後半から、当時は米占領下にあった沖縄に押し付けられたのです。

 キーティング前米太平洋軍司令官は、「関東平野など他に受け入れ先があるのなら、どうしても沖縄でなければならないとも思わない」と明言。沖縄が好ましいのは「現に今、駐留しているからだ」として、海兵隊の基地があるからという以上の理由はないとの考えを示しています(「朝日」4月16日付)。

 沖縄は、朝鮮半島、中国、東南アジアのいずれにもほぼ等距離だといいますが、仮に朝鮮有事が発生した場合、朝鮮半島により近い長崎県佐世保市に配備されている強襲揚陸艦が沖縄まで南下し、海兵隊の兵員・装備を積んでから出撃しなければなりません。

 沖縄からイラクやアフガンに派兵する際、軽装備の場合は輸送機やチャーター機を利用します。米本土から行っても時間的に大差はありません。

 米国防総省はしばしば、2004年12月に発生したインドネシア・スマトラ沖地震で「沖縄の海兵隊が真っ先に駆けつけた」と主張しますが、米議会で「(沖縄以外からも)迅速に対応できた」(3月17日、米上院外交委員会)と反論されています。

写真

(写真)宜野湾市上大謝名公民館

沖縄の苦しみ 限界

 戦後65年間、基地あるがゆえの苦しみを背負ってきた沖縄県民の怒りは、もはや限界を超えています。

 在日米軍基地の74%が集中し、沖縄本島の18%が米軍基地です。爆音や墜落事故、水質・土壌汚染、演習場での火災、実弾の流弾事故、犯罪、交通事故が絶えず発生しています。基地の存在は街づくりの障害にもなり、沖縄の経済発展を阻害しています。

 このような実態を「抑止力」という言葉で合理化するのか。あるいは「基地負担の分担」という理屈で、沖縄県外にも広げるのか。これは「日米同盟が重要」という立場であっても許されないことです。





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