2010年4月23日(金)「しんぶん赤旗」
「海兵隊=抑止力」は幻想
アジアでの戦争の「引き金」に
沖縄の米海兵隊普天間基地(宜野湾市)の返還問題で鳩山政権は無条件撤去に背を向け、「移設条件付き返還」=基地たらい回しの立場に固執し、混迷の度合いをますます深めています。それは、同政権が“沖縄の海兵隊は日本の平和と安全のための抑止力”だという幻想にとりつかれているからです。(榎本好孝)
■ 国民だましのうそ
「第31海兵遠征隊(31MEU)が沖縄に駐留していないと台湾や韓国に1日で展開できないので抑止力の致命傷になると主張する学者や評論家、政治家がいるが、素人の国民をだます真っ赤なうそだ」
宜野湾市の伊波洋一市長は与党議員への説明などでこう強調しています。
市長はその理由として(1)在沖縄海兵隊の中核部隊である31MEUは例年、米海軍佐世保基地(長崎県)の揚陸艦に乗ってオーストラリアや韓国、フィリピン、タイなどで訓練・演習を実施し、1年の半分は沖縄を不在にしている(2)普天間基地配備のヘリコプター部隊も、例えば2006年には約5カ月間、訓練・演習のため海外に出動していた―ことを挙げます。
実際、沖縄を中心に駐留している第3海兵遠征軍の資料(08年6月)によると、同軍はアジア太平洋全域で年間70以上の2国間・多国間の訓練・演習を実施。常時、沖縄に張り付いているわけではないのです。
■ 政府元高官も疑問
しかも台湾海峡や朝鮮半島の「有事」で沖縄の海兵隊を投入するという事態は、本格的な戦争を意味します。
昨年8月まで首相官邸の内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)だった柳沢協二氏は20日、国会内での与党議員らの懇談会で普天間基地問題について講演しました。
柳沢氏は「『抑止力』というのは有事に実際に使うことが基本だ。例えば、台湾海峡の紛争でオバマ米大統領は海兵隊を投入する意思決定をするのか。その時、沖縄の海兵隊が出動するとなれば、安保条約6条に基づく事前協議で鳩山総理は『分かりました。OKです』と言えるのか」と提起。「海兵隊という陸上兵力が台湾に上陸して中国軍と直接たたかうことになれば事態をコントロールできなくなる恐れがあると、まともな政治指導者なら思うはずで、そうならないようにするはずだ」と述べました。
「海兵隊=抑止力」という立場を認めることは、東アジアでの本格的な戦争の引き金に指をかけているのに等しいのです。
柳沢氏はまた、朝鮮半島「有事」については、北朝鮮の現状から「1950年の朝鮮戦争のように、北朝鮮軍が南下してきて(米韓合同軍が)釜山まで追い詰められるような戦争はまずあり得ない」と分析。沖縄からの海兵隊投入の可能性を否定しました。
■ 海外への出動恒常化
もともと沖縄の海兵隊は「日本防衛には充てられていない」(1982年、当時のワインバーガー米国防長官)軍隊です。それはアジア・太平洋地域での訓練・演習だけではなく、恒常的にイラクやアフガニスタンの戦争にさまざまな部隊を派遣していることからも明らかです。(表参照)
前出の08年6月の第3海兵遠征軍資料によると、地上戦闘部隊である第3海兵師団は03年以来、1万1500人以上をイラクやアフガンに派遣(ハワイ駐留の部隊も含む)。沖縄の海兵隊機関紙「オキナワ・マリーン」07年1月12日号は「第3海兵師団は海兵隊(が持つ三つの師団)のうち歴史的に最も小さい師団だが、…現在の地球規模での対テロ戦争への貢献は(派遣)人員の割合で、ほかの二つの海兵師団よりも大きい」と強調しています。
31MEUも04年に、数千人ともいわれる市民を殺害したイラク西部ファルージャでの総攻撃作戦で最前線に立っています。
柳沢氏は講演で「海兵隊が使われそうな地域は実はアジアではなく、アフリカ、中央アジア、中東」であり、「沖縄は補給や休養の意味で非常に便利」だと指摘。海兵隊にとっての利便性はあっても「抑止力」ではないと説明しました。
25日には普天間基地の県内「移設」に反対する沖縄県民大会が開かれます。同基地の無条件撤去のため、「海兵隊=抑止力」論の虚構を広く明らかにし、「基地のない沖縄」「基地のない日本」を目指すたたかいを国民的な規模へと大きく発展させることが必要です。
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