2010年4月18日(日)「しんぶん赤旗」
主張
田辺三菱データねつ造
薬害加害企業の反省ないのか
製薬業界大手の田辺三菱製薬とその子会社の「バイファ」が、遺伝子組み換え製剤の承認申請のさい、データを別のものに差し替えるなどしてねつ造していたとして、厚生労働省によって行政処分を受けました。田辺三菱は、薬害エイズ事件や薬害C型肝炎事件で指弾された旧「ミドリ十字」を吸収合併した会社であり、「バイファ」は旧「ミドリ十字」の子会社です。薬害加害企業としての反省のなさに怒りを新たにします。
薬屋としての魂はどこに
「謝罪の日 薬害再発防止への社長のこころ見極めがたし」
「薬屋の魂何所に捨てたるや人のいのちを守る役目を」
薬害C型肝炎訴訟全国原告団代表の山口美智子さんが、このほど出版した『いのちの歌』に載せた自作の短歌です。歌は、2008年、被告企業の田辺三菱製薬との和解合意書の調印の日に、うたったものです。
旧「ミドリ十字」が、エイズやC型肝炎のウイルスに汚染された血液で血液製剤をつくり、多くの感染者や死者まで出したのはまだ記憶に新しいところです。今回のデータねつ造は、世界初の遺伝子組み換え製剤の承認申請で「バイファ」がデータをねつ造し、親会社の田辺三菱がそれを見抜けなかったというものです。人命を軽視する両社の責任は、重大といわなければなりません。
山口さんは、「データねつ造は悪質極まりない。薬害エイズ、薬害肝炎と繰り返し引き起こし、私たちに謝罪したのはウソだったことをさらけ出した事件です。真摯(しんし)な反省が見えないと感じていた私たちの不安が的中してしまった」と怒ります。「いったいあの謝罪は何だったのか」―。思いは国民にとっても共通です。
データねつ造が明らかになったのはやけどや出血性ショックの治療薬で、旧「ミドリ十字」が1980年代初頭から開発に着手しました。96年に設立した子会社の「バイファ」が開発を継承し、田辺三菱が08年5月に発売を開始しました。08年だけで168億円を売り上げ、発売いらい約1700人に投与されたといいます。
旧「ミドリ十字」は1974年、当時の厚生省薬務局長だった松下廉蔵氏を副社長として迎え(その後社長に就任)、同氏は、96年に薬害エイズ事件で業務上過失致死罪に問われて逮捕されるまで、トップとして君臨しました。データねつ造を調査した田辺三菱の社外調査委員会は、「旧ミドリ十字の利益重視、安全軽視の企業姿勢の現れ」を批判しました。同じ体質を田辺三菱が引き継いでいたとすれば、ことは重大です。
製薬行政の対応が問われる
ねつ造の背景に、新薬競争に明け暮れ、薬害や不正事件に対応しない製薬業界の体質や、今回の事件でも処分に1年もかかった、業界と行政と癒着がないのか、検証も不可欠です。
患者の治療にあたる全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)は、「ひとたび重大な医薬品被害がおきれば取り返しのつかない事態を招く。データねつ造は決して許されることではなく、断固抗議する」と批判します。
国民の命にかかわる不正だけに、国としてもきびしく対処し、再発防止策にも積極的に取り組む必要があります。