2010年4月16日(金)「しんぶん赤旗」
主張
諫早湾干拓
政府が開門を決断するとき
“宝の海”と呼ばれた有明海を“死の海”に変えた諫早湾干拓事業で、湾を閉め切った潮受け堤防を中長期的に開門して海の再生に向けて調査する問題が、重大なヤマ場を迎えています。
鳩山由紀夫政権は近く開門調査についての方向性を打ち出すとしています。赤松広隆農水相は14、15の両日現地を訪れ、調査・懇談しました。裁判所が開門調査を命じたのに、実施してこなかった責任は政府にあります。鳩山政権はこれ以上遅らせることなく、開門調査の実施を決断すべきです。
佐賀地裁の判決に背き
福岡、佐賀、長崎、熊本の4県にまたがる有明海は、二枚貝のタイラギやムツゴロウなどの魚介類に恵まれ、ノリなどの養殖も盛んな“宝の海”でした。ところが有明海内の長崎県諫早湾を埋め立てる国営干拓事業が強行され、1997年に湾を閉め切る潮受け堤防が完成、2007年には干拓事業の完工式がおこなわれました。閉め切りの結果、潮の流れが変わり、赤潮がひんぱんに発生し、海底にはヘドロが堆積(たいせき)して有明海は“死の海”と呼ばれるようになりました。タイラギの死滅や魚介類の激減、ノリの色落ちなど漁業被害が毎年のように発生してきました。
干拓事業に反対してきた漁民らは、有明海の再生を求め、まず潮受け堤防を開門して調査することを再三訴えてきました。その結果、佐賀地裁は2008年、干拓事業と漁業被害の関連を一部認め、防災対策をおこなったうえ潮受け堤防を中長期にわたって開門して調査するよう命じました。漁民らが長年待ち望んだ判決でした。
にもかかわらず政府は判決に従わず福岡高裁に控訴し、開門調査のための環境アセスメントをやるからと、開門調査の実施を遅らせてきたのです。かつて政府がおこなった短期間の開門調査でも水質が劇的に改善したことが明らかになっています。開門を遅らせれば遅らせるほど環境の悪化が予想されるのに、実施を引き延ばしてきた政府の責任は重大です。
昨年発足した鳩山政権は、政府与党の検討委員会をつくり、開門調査を実施するかどうかの方向性を短期間でまとめるとしました。ところが政権発足から半年以上たつのに、今もって結論を出していません。有明海沿岸ではその期間にも、アサリの水揚げ減やノリの色落ちなど漁業被害がますます広がっています。開門調査の実施は待ったなしの状態です。
これまで訴訟に加わってこなかった、諫早湾内でノリ養殖にあたる漁協でも開門調査を求める声が高まり、3月に新たな裁判も起こされました。有明海の再生のために一刻も早く堤防を開門し、農業や防災対策と両立させながら、開門の効果を見定めるべきです。
有明海を再生するため
もともと諫早湾の干拓事業は、当初は「食糧増産」をうたい文句に始まり、途中からは「コメ余り」などで事情が変わったからと「防災対策」などが持ち出されてきた目的のはっきりしない公共事業の典型です。完工までにかかった総事業費は2500億円以上です。
望んだわけでもない事業のために環境が破壊され、苦しめられるのではたまりません。潮受け堤防を直ちに開門するとともに、破壊された有明海の再生に踏み出すことは、政治の最低限の責任です。
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