2010年4月3日(土)「しんぶん赤旗」

障害のある子どもたちの教育条件を改善するための緊急提案

2010年4月2日 日本共産党


 日本共産党が2日に発表した「障害のある子どもたちの教育条件を改善するための緊急提案」は次の通りです。


 わが国では障害のある子どもたちの教育のために、(1)特別支援学校(障害児学校)(2)小中学校の特別支援学級(障害児学級)(3)通級指導教室(通常の学級から週1回程度通う)という、主に三つの特別な場が設けられています。この数年、こうした場で学ぶ子どもたちの数は急増し、1999年の約18万人からこの10年間で約30万人に増え、年を追うごとに増加のペースも上がっています。

 現行の特別支援教育体制は、2007年に、発達障害(LD=学習障害、ADHD=注意欠陥多動性障害、高機能自閉症=知的障害を伴わない自閉症など)の子どもを新たに特別な教育の対象に加えて発足したものです。日本共産党は、文部科学省がこの構想を明らかにしたさいに政策提言を発表し、教室や施設の整備、教職員の確保など、新体制を万全なものとして出発させるようもとめました(「特別な支援を必要とするすべての子どもたちに豊かな教育を」「しんぶん赤旗」04年2月16日付)。ところが実際には、政治の責任は放棄され、「既存の人的・物的資源」で対応するなどとして、必要な予算と人員は確保されませんでした。地方自治体でも、たとえば東京都では、約700も教室が足りないにもかかわらず、特別支援学校の数を増やさないことを前提に学校再編計画をすすめるなど、条件整備に背をむける姿勢が強まっています。

 このため、全国で深刻な問題が起きています。特別支援学校では、校庭をつぶして教室をつくる、音楽室や図書室を普通教室に転用する、さらには、廊下にまで教室をつくる、それでも足りずに教室をカーテンで仕切って二つのクラスで使うなどの事態が広がっています。薄いカーテン1枚で仕切った「教室」は狭く、隣のクラスの先生や子どもの声も筒抜けで、落ち着いた授業になりません。特別支援学級や通級指導教室でも「希望しても入れない」などの問題が起きています。しかも、こうした特別支援教育に携わる教職員の労働条件は劣悪であり、一般の学校にくらべても多くの健康被害が起きています。こうした事態を放置しておくわけにはゆきません。

 特別支援教育の場で学ぶ子どもたちが急増しているのは、一方では、子どもの条件にあった教育を願う保護者の期待にそった結果でもありますが、同時に、急増の背景に社会のゆがみがあることを見ないわけにはゆきません。全国いっせい学力テスト体制などゆきすぎた競争で子どもを追いたてる「教育改革」は、ていねいな支援を必要とする子どもたちに手をかけられない状態を恒常化し、結果としてそういう子どもたちが通常の学級にいづらくなる状態をつくってきました。また、貧困の広がりなどによって精神的に不安定な子どもが増えていることも背景にあります。

 こうした子どもたちをしっかり支えることこそ政治と社会の責任です。障害のある子どもの教育は、その子どもの成長・発達する権利を保障するためのものです。同時にそれは、障害のある人びとが社会の構成員として自分らしく生きていく権利を保障されるためにも不可欠です。特別支援教育体制が発足して一定の期間を経た今日、日本共産党はあらためて、障害のある子どもたちの劣悪な教育条件を改善する緊急提案を発表し、その実現のために国民のみなさんと力をあわせます。

1 特別支援学校の教室・教員不足の解消などの条件整備をすすめる

 特別支援学校は、知的障害のある子どもたちを対象としたものを中心に大規模化し、超過密の状態となり、はじめに紹介したような深刻な問題が起きています。文部科学省の調査(08年度)でも全国で約2800の教室が不足しています。

 特別支援学校には現在、教育を保障するにふさわしい条件を整えるための国の基準がありません。そのために、カーテンで仕切った教室も“財政難だから仕方ない”として放置されてきました。どんなに過密になってもそれに歯止めをかけるルールさえないことは、「教育条件の整備」という教育行政の最大の仕事をあいまいにする重大な欠陥であり、事態がここまでひどくなるのを放置してきた大きな原因だといわなければなりません。

 文部科学省は08年3月に「特別支援学校の大規模化・狭隘(きょうあい)化への対応」を全国に通知しましたが、これによってとられた対策は「相談窓口」の開設などに過ぎず、まったく不十分なものでした。こうした対応をあらため、条件整備の具体的な体制を整えるべきです。

 学校建設、施設改善の緊急計画……今日の教室不足を解消する学校建設、施設改善の緊急計画を国と地方で作成し、実施します。特別支援学校を増やし、学校を小規模・地域密着型でつくることは、障害などを理由にした排除のない教育(インクルーシブ教育)を実現するうえでもだいじなことです。計画推進のため、国の建設費補助金を現行の2分の1から3分の2に引き上げます。

 異常な状態をなくすための「基準」の制定……カーテンで仕切った教室などの異常な事態をなくすために、国としての「基準」をつくって全国的な点検を実施し、施設改善をすすめます。

 無理な学校統廃合の中止……障害の違いに応じてつくられている盲・ろう・養護などの複数の学校を統廃合する動きが各地ですすんでいます。その結果、養護教諭や栄養士など必要な人員を削ったり、プールの「共用化」など、教育条件・内容の悪化が引き起こされています。こうした統廃合を中止します。仮に複数の障害種別に応ずる学校をつくる場合でも、障害の違いに応じた専門性や配慮、教育条件などの確保を前提とすべきです。

 教員不足の解消……必要な教職員数を配置するために、(1)子どもの実態に即した「重複障害学級」の認定(2)小中学校の特別支援教育を支援する「センター的機能」を担う教員の独自の定数化(3)多い県では30%をこえる異常な非正規化の是正などをすすめます。

 スクールバスの増車……肢体不自由の子どもの通学のためのスクールバスが少なく、片道2時間以上もかかる場合もあります。スクールバスを増車し、改善をはかります。

 寄宿舎の保障……通学が困難な子ども、寄宿生活が教育上不可欠な子ども、困難な家庭環境にある子どもなど、必要なすべての子どもの入舎を保障します。

2 特別支援学級(障害児学級)の抜本的な拡充をすすめる

 特別支援学級の在籍児はこの10年で約2倍になっています。同時に、従来多かった知的障害の子どもに加え、対人関係をうまく結べない情緒障害や発達障害の子ども、障害の重い子どもなど、障害の状態が多様になっています。

 ところが、学級編制基準はこの17年間変わらず、「従来のようなていねいな教育ができなくなった」などの悩みが深まっています。また、多くの学校で施設や教室の不足や不十分さが深刻になっています。子どもの急増と障害の多様化に見合った条件整備が必要です。

 特別支援学級の増設と適正な配置……小学校では、1年生から6年生まで同じ学級に入れることをやめ、低学年と高学年を分けて学級を編制するなど、教育条件を向上させます。特別支援学級での支援を必要とする子どもが1人でもいる学校に学級を設置し、自宅に近い学校で学べるようにします。一部の自治体に見られる、特定の学校に学級を集中させて大規模化をもたらしているいわゆる「集中方式」を改善します。

 施設・設備の整備……プレイルームなど教育上必要な施設・設備を整備します。

 教員の専門性の保障……特別支援教育に熱意をもち、専門性のある教員が安定的に教育にあたれるように採用や異動のしくみを改善するとともに、自主的な研修を保障します。通級指導教室などの教員も同様に専門性の保障を重視します。

 特別支援学級の「教室」化の中止……文科省は、特別支援学級を、子どもが限られた時間だけ通い、担任教員も保障されない「特別支援教室」に置き換える方向をかかげており、保護者・関係者から不安の声が上がっています。安定した担任教員や子ども集団、カリキュラムのある場が必要な子どもたちがいるのですから、「教室」化計画は中止すべきです。

3 通級指導教室の条件整備を抜本的に強化する

 通級指導教室は、小中学校の子どもたちが、ほとんどの授業を通常の学級で受けながら、障害の状態などに応じて特別な指導を受けるために通う場です。従来の言語障害や難聴などに加えて、六十数万人と推計されるLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、高機能自閉症(知的障害を伴わない自閉症)などの子どもを指導する場として位置づけられています。その他さまざまな事情から特別な支援が必要な子どもを受けとめ指導するうえでも貴重な場です。

 しかし、その設置は大きく遅れています。全国の在籍児数は5万人(08年度)にすぎず、設置されている教室数も3600あまり(同)であり、「希望しても教室がない」「子どもの人数が増え、1人当たりの指導時間が減った」などの事態が広がっています。国は、通級指導教室に関する整備計画も、「通級する子ども何人に教員を1人つけるか」の教員配置基準ももっていません。こうした現状をあらためます。

 通級指導教室の整備計画……通級指導教室への要望を調査し、それに基づいた整備計画をたて、教室を抜本的に増やします。

 教室編制基準の制定……編制基準がないため、1人の教員で何十人もの子どもを指導する事態も生まれています。国として「生徒10名に教員1人を配置」などの基準を設け、必要な教員を配置します。

 子どもの通学の保障……すべての学校に教室が設置されているわけではないため、送り迎えの条件がなければ、希望しても教室に通わせることができません。子どもの送迎のために仕事をやめざるをえない保護者もでています。設置校を増やすとともに、通学を行政の責任で保障します。

4 「30人学級」化など、十分な教育をすすめるための条件を整備する

 通常の学級のなかでも、特別な支援が必要な子どもへのていねいな指導がもとめられます。そのためには、現在の「40人学級」などの劣悪な教育条件を改善し、一人ひとりに目がゆきとどくように教育条件を整える必要があります。

 同時に、子どもたちを温かく受けとめる雰囲気を奪う、過度の「競争」と「管理」の教育をあらためることも急がれます。

 「30人学級」の早期実現、教職員等の増員……「30人学級」の早期実現をめざすとともに、特別支援教育コーディネーター担当の教員を増員します。「特別支援教育支援員」を増員するとともに処遇を改善し、専門性を確保します。

 専門家による巡回相談体制の確立……教育学、心理学などの専門家による巡回相談の体制をすべての市町村に確立します。

 高校などでの条件整備……高校での特別支援教育のための教員や専門的支援員の配置など条件を整えます。障害のある子どもの放課後が保障される「居場所づくり」をすすめます。障害のある子どもの専門学校や大学での勉学を保障する条件整備をすすめます。

5 国連の「障害者権利条約」を批准し、障害のある子どもたちの教育条件の改善を国際的水準を踏まえてすすめる

 以上の緊急提案に要する費用は国と地方をあわせて数千億円の規模であり、「やる気」さえあれば十分に実現可能なものです。政府のイニシアチブですみやかに具体化し、障害のある子どもたちのための教育条件整備をすすめるよう強くもとめます。

 同時に、こうした条件整備を、障害者の権利保障をめぐる世界の流れの中に位置づけることが大切です。国連の「障害者権利条約」(08年5月発効)は、障害のある人が障害のない人と平等に人権を保障され、豊かに生きられる社会を実現するために、教育の分野で「インクルーシブ教育」(障害のある子どもが一般の教育制度から排除されず参加を保障される教育)を確立することを提唱しました。

 同条約は、「インクルーシブ教育」の目標を子どもの「最大限の発達」と「社会への完全かつ効果的な参加」にすえ、そのために教育条件を整備することを掲げています。そこには「効果的で個別化された支援措置」など障害に応じた特別な場での教育もふくまれます。

 私たちは同条約の批准をすすめる立場から、日本の教育制度全体が「インクルーシブ教育」にふさわしいものとなるように、国民的な合意形成を大切にしながら、改善し発展させるべきだと考えます。同時に、目の前の障害のある子どもたちのきわめて劣悪な教育条件の改善を急ぐことが、障害者権利条約の立場からももとめられています。日本共産党は、そのために全力をあげます。





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