2010年3月27日(土)「しんぶん赤旗」

主張

足利事件再審判決

自白強要と冤罪の根を絶て


 身に覚えのない女児殺害の罪で17年半も獄中に捕らわれ続けた菅家利和さんに、ようやく無罪の判決が出されました。「足利事件」での、宇都宮地裁の再審です。

 検察側は上訴権を放棄したため、菅家さんの無罪が確定しました。判決は、菅家さん「有罪」の根拠とされた警察庁科学警察研究所のDNA鑑定の証拠能力を認めず、捜査段階の「自白」についても「虚偽は明らか」と認定しました。また裁判所の責任についても、裁判長が起立し、頭を下げて謝罪しました。悲劇をくりかえさないため、自白強要と冤罪(えんざい)の根を徹底して絶つことが求められます。

背筋寒くなる悲惨な体験

 栃木県足利市で当時4歳の女児が行方不明になり、翌日遺体となって発見されたのは1990年5月です。警察は翌年末になって、菅家さんを誘拐と殺人などの疑いで逮捕しました。逮捕の決め手とされたのは、DNA鑑定と、菅家さんの「自白」でした。

 菅家さんは裁判の途中から「自白」を撤回し、無実を主張しました。しかし、宇都宮地裁、東京高裁、最高裁はいずれも認めず、2000年7月菅家さんの無期懲役が確定、いらい09年に東京高裁が再審を認め釈放されるまで、菅家さんは自由を奪われました。

 東京高裁が再審を認めたのは、DNAの再鑑定で、菅家さんの無関係が証明されたからです。菅家さんや弁護団は、科警研がおこなったDNA鑑定の信頼性に疑問を提起し、資料の保存や再鑑定を求め、無罪や再審を主張してきました。不確かな鑑定を証拠に有罪と決め付け、再鑑定も拒否して再審を認めなかった、警察や検察、裁判所の責任は重大です。

 なぜ判断を誤ったのか、昨年10月から始まった宇都宮地裁での再審では、この一点に焦点が当てられました。法廷で取り調べ段階での録音テープが再生され、菅家さんがどんなに否認してもDNA鑑定をたてに追い詰める取調官の発言や、その追及に虚偽の自白を余儀なくされる菅家さんの様子が生々しく再現されました。

 DNA鑑定は万能ではありません。にもかかわらず、菅家さんがどんなにやっていないと否認しても、そのことばが信じてもらえないために追い詰められ、自ら警察や検察の筋書き通り「自白」させられてしまう事実に、背筋が寒くなる思いです。菅家さんの悲惨な体験は、ことばに言い尽くせないほど重いものがあります。

 再審判決は、DNA鑑定や「自白」の誤りを認めるとともに、検察の取り調べにも一部違法なものがあったとしています。判決をうけとめ、警察や検察が誤判の原因を掘り下げ、二度と繰り返さない対策をとることが求められます。

密室での取り調べなくせ

 とりわけ重要なのは、密室での取り調べをなくすことです。菅家さんを無実の罪で長期間獄中に閉じ込めた「足利事件」だけでなく、冤罪事件が後を絶たないのは、警察や検察の取り調べが密室でおこなわれ、自白の強要がまかり通っているからです。

 無実のものが犯人にされ、真犯人が野放しにされる冤罪事件が繰り返されてはなりません。録音・録画で取り調べを全面可視化するなど、密室での自白強要をやめさせることは不可欠であり、政府はその実現を急ぐべきです。





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