2010年3月20日(土)「しんぶん赤旗」
是正されぬ使い捨て労働
派遣法改定案の問題点
鳩山内閣が19日、閣議決定した労働者派遣法改定案は、現状のままでは「使い捨て労働の是正にはならない」と強い批判の声がおこっています。実効ある改正をするために、とくに問題とされているポイントをみてみます。
製造業に常用型を容認
一昨年秋からおこった製造業大企業各社による大量の「派遣切り」を二度と繰り返さないこと。労働者派遣法を改正するに当たって、ここに抜け穴があったら何のための法改正か、ということになります。
政府案は、製造業派遣を「原則禁止」するとしています。ただし派遣会社に「常用雇用されている労働者(常用型)」の派遣を例外として認めています。これが大きな抜け穴になっています。
常用型は、雇用が比較的安定しているというのが理由ですが、実態はまったく違います。「派遣切り」がおこったとき、犠牲になった労働者の多くが常用型でした。解雇されるのは登録型となんら変わりません。とくに製造業の場合、派遣が「雇用の調整弁」にされ、景気の変動で大量解雇がおこります。
一部には、常用型を派遣禁止の例外にするなら、短期契約の反復で1年を超える見込みがあれば「常用雇用」とする厚生労働省の解釈を変えて、期間の定めのない雇用にすべきだという意見もあります。日本共産党は、期間の定めに関係なく首切りされている実態からみて、製造業への派遣は例外なしに禁止することを主張しています。
登録型「専門26業務」例外
政府案は、身分が不安定な登録型派遣を禁止するとしています。しかし、例外をつくっています。なかでも問題があるのは「専門26業務」を対象外にしていることです。
専門的な知識、技術、経験がある労働者は、派遣であっても安定しているからだといいます。「専門26業務」は政令で指定され、派遣期間も制限がありません。働いている労働者は100万人にのぼります。専門業務とは名ばかりで、一般事務とほとんどかわらない業務が多いのが実態です。
「事務用機器操作」は、電子計算機などの操作業務ですが、これだとパソコン操作が当たり前になっている今日、事務の仕事のほとんどが「専門業務」扱いされることになります。
「専門26業務」を現状のまま例外扱いすることは、自由にいつまでも派遣を使い続けられることになります。見逃すわけにはいかない大きな抜け穴です。
日雇い派遣例外を認める
究極の不安定雇用といわれる「日雇い派遣」について改定案は、2カ月以下の派遣を禁止するという形で規制するとしています。しかし、「日雇い派遣が常態であり、かつ、労働者の保護に問題ない業務等について政令により認める」と例外を認めています。不安定極まりなく、違法行為が後を絶たない日雇い派遣については例外なく禁止すべきです。
優先申し込み義務を緩和
改定案には、自公政権が派遣先企業の要求を受けてつくった規制緩和を踏襲した改悪が含まれています。
閣議決定前の改定案にあった「派遣先企業による事前面接の解禁」は削除されましたが、専門業務で働く派遣労働者に対する「直接雇用の申し込み義務」を撤廃する改悪は残されたままです。
現在、専門業務の派遣労働者を受け入れている企業が、同じ業務に正社員を採用する場合、そこで働いている派遣労働者に優先的に直接雇用を申し込む義務があります。ところが、改定案では、「期限の定めのない雇用」の派遣労働者については、この義務を免除します。これではずっと派遣労働者のままであり、正社員への道は閉ざされてしまいます。
みなし雇用の実効性に疑問
偽装請負や期間制限違反など違法派遣の場合、派遣先企業が派遣労働者に直接雇用を申し込んだとみなす「みなし雇用」の規定が盛り込まれました。
しかし、その労働条件は「派遣元と同一」としているため、偽装請負を告発した労働者が6カ月など有期契約の場合、6カ月間だけ雇えば「契約満了」を理由に解雇できます。これでは派遣先企業が違法行為をしても雇用責任を負わなくてすみます。すぐに解雇されることを恐れて違法行為を告発できなくなってしまいます。「みなし雇用」は期限の定めのない雇用にすべきです。
また、「みなし雇用」は、派遣先が違法行為だと知らず、かつ知らなかったことについて過失がなければ適用されません。派遣先企業が「知らなかった」といえば適用逃れができます。こうした要件は削除すべきです。
欧州では当たり前となっている派遣先の労働者との「均等待遇」については、派遣元に「均衡を考慮した待遇」を「配慮」するよう求めているだけで実効性がありません。均等待遇を義務付ける規定とすべきです。
施行は最大5年先送り
登録型派遣と製造派遣の原則禁止については大穴を開けたうえ、その施行は法律の公布後3年間も先送りされます。さらに、登録型派遣については、「比較的問題が少ない」などとされた業務は、さらに2年間も適用が猶予されます。二度と「派遣切り」などを許さないように速やかに施行すべきです。