2010年3月14日(日)「しんぶん赤旗」
札幌7人死亡グループホーム火災
複数夜勤だったら…肩落とす同業女性
昨年(群馬)に次ぎ、また
札幌市北区で13日未明におきたグループホーム「みらいとんでん」の火災事故。認知症の入所者7人が犠牲になりました。高齢者施設の火災事故では、昨年3月にも群馬県の施設で10人が死亡しました。惨事は防げなかったのか―。(阿曽隆)
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火災現場はJR札幌駅から北約7キロメートルにある住宅地。近くに住む男性によると、木造2階建ての施設建物は、14〜15年前に個人の自宅として建てられました。約5年前に今の施設所有者が買いうけ、改装を加えた後、事業所としてオープンしたといいます。
一夜明け、黒くすすけた壁や崩れ落ちたロッジ風の大きな屋根が、火災の大きさを物語っていました。
近くに住む男性(37)は「強い雨まじりの風にあおられ、火の粉や灰がここまで飛んできた。ものすごい炎と煙だった」と語りました。普段、入所者と職員が散歩する姿をよく見かけたといい、「本当にかわいそうなことです」と肩をおとしました。
施設には、スプリンクラーや火災報知設備がありませんでした。当直は女性職員(24)が1人きりだったといいます。
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入所者は認知症や介助がないと自力では避難できない人たちばかりでした。
「犠牲となった入所者はもちろん、1人で夜勤についていた職員のことを思うと、かわいそうでなりません」 こう話すのは、花束をもって現場を訪れた札幌市内の別の介護施設に働く50歳代の介護福祉士の女性。
目に涙を浮かべながら、「お年寄りを1人避難させるのさえ大変なのに…。夜勤はせめて複数が必要ですが、いまの介護保険のもとでは、経営がなりたたない。スプリンクラーも高額です。国や行政は、介護事業所の実態に沿ってバックアップする責任があると思う」と訴えました。
一方、同施設は消防法で定める消防計画(消火や通報などのマニュアル)を提出しないなどの義務違反があり、指導も受けていたといいます。こうした経営姿勢が、今回の惨事の背景にあるのではないかと指摘する声もあがっています。
よそごとでない。手厚い援助ほしい
長野・施設所長語る
「人ごとではない」と、長野市の認知症高齢者グループホームの所長はいいます。昨年消防士を呼んで消火・避難訓練をしましたが、不安は消えません。
「利用者に安心感を与える」と、同ホームは民家を改造した木造建築です。札幌市のグループホーム「みらいとんでん」も同じ木造の小規模施設。
長野市の同ホームは内部を耐火構造に改修しました。台所は電磁調理器、暖房はエアコンで、ガスは風呂と洗濯乾燥に使うのみ。じかに火を扱うことはありません。「こうした建築改修に、行政からの支援はありませんでした」(所長)
2006年1月に7人が死亡した長崎県大村市の「やすらぎの里さくら館」の火災を踏まえ、政府は昨年4月、スプリンクラーの設置義務基準を厳しくしました。それでも小規模施設の「みらいとんでん」や長野市の同ホームは基準以下で、設置義務はありません。
同所長は「スプリンクラーの設置は大金がかかり、若干の補助があっても、自前での設置は難しい」。2年後までに火災報知設備の設置が義務付けられていますが、行政からの補助もわずかだといいます。
長野市の同ホームは、入所者が6人。職員は常勤6人と非常勤など10人です。夜間の職員体制は、介護保険の基準によって1人の配置です。所長は「職員1人では、火災もそうですが、入所者の急変など、とても不安」と話します。
「夜間体制を2人にしようとすると、増員分の人件費は、介護報酬の加算でまかなうことになりますが、利用料の値上げが必要」といいます。
入所者は月額10万〜12万円負担しています。「これ以上の負担は困難です。人員を厚くするには、介護保険によらない行政の手厚い援助が必要」と所長は指摘します。(海老名広信)