2010年3月4日(木)「しんぶん赤旗」

子どもと「貧困」

授業料滞納解消 学校も努力

卒業式 笑顔やっと

教育費無償化は切実


 今、全国で「授業料が払えずに卒業できない生徒をつくらない」と懸命な努力がされています。首都圏のある私立高校を訪ねました。(荻野悦子)


 「毎年、何人かは必ず、授業料を滞納する生徒がいます」と学校事務の授業料納付係の責任者が語ります。

 一人ひとりについて、家庭訪問も含めて保護者と連絡をとり、状況を把握しながら、納付の手だてを一緒に探ります。この高校では授業料滞納がある場合、進級や卒業に向けて、いつまでにどうやって納めるのか、延納計画を出させます。滞納が全額の場合には仮進級に、3年生の場合は完納できなければ卒業延期になります。

 「私学は学校の経営そのものが成り立たなくなってしまいますから、厳しくせざるをえません」といいます。

半年で27万4700円

 沙穂さん(18)=仮名=は今年、卒業式の直前になって09年10月からの自分の授業料、27万4700円が未納になっていることを知りました。卒業式の予行練習には姿を見せませんでした。

 母親は外国籍で身内の不幸の後始末のため動きまわっていて、お金のことはわかりません。父親は電気工事の自営業。取引先の倒産などで、資金繰りに懸命な状態が続いています。父親は「工事の代金がまとまって入れば何とかできるから」と授業料の納付を先延ばしにしてきたのでした。卒業式直前になって「間に合わない」。

 「これ以上借りる先はない」という父親に、事務職員が「自治体の中小企業向けの貸付制度や社会福祉協議会の貸付金など、あらゆる制度を活用して」とアドバイスします。「お住まいの自治体にはこんな制度もあるはずですよ」と。

制度通達知らず

 「借りられるまでに時間がかかりすぎる」「年度末で処理ができない」「保証人が立てられない」などの理由からなかなか、めどが立ちません。厚生労働省が2月12日に出した生活福祉資金の貸し付け条件の緩和の通達も、社会福祉協議会の現場の職員に知られていませんでした。

 卒業式の3日前、父親から「借りられそうです」という連絡が入りました。東京都の中小企業向けの融資制度から貸し付けを受けることができました。「お父さんはあきらめかけていましたが、何とかしようという学校の姿勢が伝わったんですね。頑張ってくれて、本当によかった」と胸をなでおろす職員。同校に在籍する1、2年生のなかには、授業料の滞納で進級の見通しがたたない生徒が何人かいます。

 「お金があるから私学に入るのではありません。公立に行けなくて無理をしてくるんです」と同校の教師がいいます。

貧困を断ち切る

 「何とかしたいと思っても、現在の制度は貸し付けばかり。奨学金も何もかも、結局、借金を増やすことになります。就学支援金など、この間の運動の成果で来年度から前進したこともありますが、親の経済状態と切り離して子どもの学習権を保障するには私学も含めた教育費の無償化がどうしても必要です。それが貧困の再生産を断ち切る方法ではないでしょうか」

 式の当日、卒業証書の授与が始まりました。一人ひとりの名前が呼ばれていきます。喜びがはじけたような笑顔や照れくさそうなほほえみ、緊張した面持ち、それぞれの思いを胸に卒業証書を手にする生徒たち。沙穂さんも呼ばれました。口元がほころび、白い歯がこぼれました。



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