2010年3月2日(火)「しんぶん赤旗」

増える虐待 足りない職員

子ども守る“家”ピンチ

児童養護施設

最低基準 国は地方任せやめよ


 鳩山内閣は、国が責任をもっている児童養護施設の最低基準を、「地域主権」の名で地方自治体の条例に委ねようとしています。関係者から、「条例化で福祉が地方任せとなり、子どもの育ち、成長に影響が出るのでは」と不安が広がっています。(川田博子)


●人員基準を30年も放置

写真

(写真)テーブルで児童指導員にみてもらいながら宿題をします

 「ただいま」と玄関を入る子どもの声に、「お帰り」とこたえる児童指導員。部屋にランドセルを置いた後は宿題タイムです。テーブルを囲み、漢字ドリルや国語教科書の音読などの宿題を始めます。

 東京都練馬区の児童養護施設・錦華学院(土田秀行院長)。同学院本園では、3〜18歳未満までの子ども46人が四つの異年齢グループに分かれてくらしています。

 児童養護施設では、虐待を受けた子が増え続けているにもかかわらず、「子ども6人に対し職員1人」という職員配置の最低基準は1979年以降、放置されたままです。

 同学院は子ども12人に対して指導員4人と、国の最低基準より手厚い体制をとっています。

 しかし宿直(平均月6回)や公休もあるため、子どもに対応できる指導員は、ほとんどの時間、1人だけです。子どもの買い物への同行や学校への対応で、指導員が休日出勤することもしばしばあります。

 ベテランの指導員、太田雄三さん(48)が語ります。

 「指導員に学校での出来事を話したり、甘えたり…。子どもたちが家庭にいれば普通にできることが、施設ではできないことがあります。『もっと人がいれば応じてあげられるのに』と思うことがたびたびです」

 太田さんは、児童養護施設の新しい役割も強調します。

 「『家庭に代わる場』としての衣食住や保健、文化の継承などの役割以上に、虐待を受けた子、障害がある子などへの対応が、仕事の中で大きな比重を占めているんです」

 全国の児童相談所が対応した児童虐待相談件数は1992年度から2007年度までの15年間で約30倍、4万639件と過去最高で、児童養護施設でくらす子どもの6割が虐待を受けたことがあるからです。

 太田さんは、「親から虐待を受けた子の心の傷は深い。施設の生活に慣れてくると、多くの子が学校や施設でいじめや暴力、引きこもり、不登校などの『問題行動』を起こします。学校への付き添いや子ども同士のもめごとの仲裁など、一人ひとりへの丁寧な対応が必要になっています。子どもの生活の安定と職員の定着のために、早期に職員配置基準を改善することが必要です」と訴えます。

●自治体格差広がる恐れ

 子どもに関する福祉施設の最低基準は、憲法に基づく「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するため、児童福祉施設最低基準で定められ、「最低基準を超えて、常に設備および運営を向上させなければならない」(第4条)とされています。

 鳩山内閣は今国会に地域主権推進一括法案を提出し、最低基準を各自治体が条例で決める仕組みに変えようとしています。

 施設で子どもがくらす集団は、小さい方がより適切な環境になります。子どもが傷ついた心をいやすうえでも、プライバシーを守るうえでも、長年放置されてきた面積や定員数の最低基準=子ども1人当たり約2畳(3・3平方メートル)、1部屋15人以下=も実態に合わなくなっています。

 国は子ども6人一組がくらす地域小規模児童養護施設制度を推進していますが、その実施主体は地方自治体です。財政難などを理由に同制度を実施していない自治体は、10府県(京都、秋田、山形、富山、石川、鳥取、島根、徳島、香川、佐賀)8政令市(札幌、さいたま、新潟、浜松、神戸、北九州、横須賀、金沢)にのぼります。

 錦華学院の土田院長は、「自治体独自の補助金の有無など、いまでも格差があるのに、条例化はますます格差を広げます。子どもがどこに生まれても、健やかに育つ環境を等しく保障しなければなりません」と強調します。

 指導員の太田さんは、全国福祉保育労働組合児童養護部会長を務めています。同労組は、最低基準を地方自治体にゆだねることに反対し、(1)施設での子どもの安心した生活、発達の保障のために、子ども2人に対し指導員・保育士1人の配置に(2)地域小規模児童養護施設や小規模グループケアの推進―などを掲げ、国や自治体に要請、運動しています。

 全国575の施設でつくる全国社会福祉協議会全国児童養護施設協議会(中田浩会長)は昨年12月15日、長妻昭厚労相に対し、国と自治体の責任による、児童福祉施設最低基準および措置制度の堅持と拡充を求めた要望書を提出しました。施設小規模化の整備と職員配置充実のため、積極的な財政投入を求めています。

図

 児童養護施設 全国575施設。養育放棄や暴行などの虐待、行方不明や病気、就労などで親などとくらすことが困難な子どもの65%、3万1600人が生活しています。子ども全員が一つの集団でくらす施設、家庭に近い少人数のグループでくらす施設など、形態はさまざまです。



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