2010年3月1日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPRESS

ひきこもり

多様な居場所を


 4月から、ひきこもりなどの困難を抱える子ども・若者を支援するネットワーク整備などを目的にした子ども・若者育成支援推進法が施行されます。ひきこもりの若者にどんな支援が必要か。ひきこもりの子どもを抱える親の会が運営する月に1回の若者たちの「居場所」で、ボランティアとして働く2人の経験者が話し合いました。(染矢ゆう子)


 高山 「居場所」に出てくるまでが大変だと思います。ひきこもりになるきっかけは人それぞれだけど状態は一緒。私は3、4年、風呂に入る気も起きませんでした。まったく人に会わなくなり、体重が30キロ増えました。時間がとてつもなく長く感じ、孤独で、将来に対する不安しかない毎日でした。

 白石 私は中学で恐喝にあっていたグループに会うことが怖かった。2年間、外に出られず、車でようやく外出できても助手席には座れず、後部座席に隠れているほどでした。

 高山 「自分のことが気にされている」と悪い方、悪い方に考えてしまって外出ができませんでした。

 白石 心に傷があるから、そういう考えに向かいやすいですよね。

どんな薬よりも

 高山 どんな薬よりも、私は人に助けられました。心療内科に通院していたときに同じようにひきこもり状態だった友人に出会い、ランチをしに外に出られるようになりました。そこで男性と知り合い、好きになり、ダイエットを始めたんです。家族以外の人に自分を認めてもらえることが回復に向かう第一歩だと思います。

 白石 両親は私がひきこもっていることを周囲に話さず、社会と縁を切っていました。けんかばかりで家が居場所ではなかった。定時制高校を出て、大学で思い切って寮に入り、そこで母子家庭の先輩に出会いました。自分だけが苦しいんじゃないとわかり視野が広がりました。

 高山 自分と他人を比べることの無意味さを好きになった男性が教えてくれました。ありのままの自分でいいんです。

放っておけない

 白石 働く受け皿が必要です。経歴にブランクがあるので、履歴書に向かうところから難しい。派遣で働いていたんですが、昨年、派遣の契約が終わり、ハローワークで「ひきこもり支援相談士」という資格を知りました。自分と同じ苦しみをしている人たちのために、何かできることがあれば、と思います。

 高山 ひきこもりが長期化し、親の会でも、生活保護や障害年金の相談が多くなっています。放ってはおけません。ひきこもりは病気ではなく、心が折れた状態です。他人に認められることで必ず治ることをもっと知ってほしい。


2人のプロフィル(名前は仮名)

 ■白石ちかさん(27)=東京都練馬区 幼稚園から小学4年までと中学2、3年時に不登校を経験。大学に5年在籍し、中退。派遣社員やアルバイトなどをし、現在は祖父母宅に同居。家事手伝いをしながら、ひきこもりの支援を行う。

 ■高山ゆりこさん(43)=東京都清瀬市 職場の人間関係に疲れ、28歳から32歳までひきこもりを経験。現在、セレモニー派遣会社で働く。


「関係機関に相談したい」8割

 東京都が、15歳以上34歳以下の都民を対象に行った実態調査(2008年)によると、ひきこもりの状態となった原因では、「職場不適応」(25%)や「就職活動不調」(14%)など就職・就労に関することが上位を占めました。(表参照)

 また、約8割の人が関係機関に相談したいと考えており、気軽に相談でき、親身に話を聞いてくれる相談機関や居場所を求めていることが分かりました。

図

 子ども・若者育成支援推進法 国、地方自治体、NPOが連携し、社会生活を円滑に営む上での困難を有する子どもや若者を支援する法律。国や自治体で計画をたて、相談窓口を設置し、支援機関をつなげることが主な内容です。


社会保障の問題 さらに位置づけ必要

NPO法人文化学習協同ネットワーク代表理事

佐藤洋作さん

 ひきこもりの青年たちの支援にとりくむNPO法人文化学習協同ネットワーク代表理事の佐藤洋作さんは次のように話しています。

 今、学校でも、職場でも、競争的な関係で挫折や疲労がたまっています。回復に必要な仲間の関係が成立せず、心あるおとなとの出会いもありません。結果、「自分だけがだめな人間」だと自己否定が深まります。

 誰にでも立ち止まることや思うようにいかずひきこもることはあります。長引かせないことが大事です。

 子ども・若者の苦悩の理解が欠けたところでされる激励や助言では「誰もわかってくれない」とかえって長期化していきます。

 当事者自身が自分の課題と向き合い、困難を乗り越え、自分の役割を発揮していくということがないと本当の支援になりません。

 「居場所」やフリースペースは支援者に出会い、同じ状況を経験してきた同世代に出会う場所です。悩んでいるのは自分だけじゃないと知り、ぐちをいったり、一緒に遊んだり、アルバイトに出かけたり、外につながる拠点です。もっと地域にあっていいと思います。

 ひきこもる原因はいじめ、就職、などさまざまです。だから、社会に出ていくためのプログラムも多様にあるべきです。国の社会保障の課題として、しっかり位置づけて支援すべきだと思います。

 ひきこもりを脱するには、まずは親が支援機関と出会うこと。それを子どもに伝えることです。

 ひきこもる人が社会に出ることを支える人たちが手を結び、当事者自身も参加して、地域を再生していくことが必要です。


お悩みHunter

就職に有利な大学選ぶべきか

  高校2年の女子です。高校に入ったころは大学に進んで、好きな海の生物の研究者になりたいと夢をもっていました。でも、最近、大学生の就職難の話を聞くようになり、もっと就職に有利な学校を選んだ方がいいかもと迷い始めました。高校の勉強にも力が入りません。夢より現実を追い求めた方がいいのでしょうか。(16歳、女性)

夢を現実の目標として、力に

  100年に1度の不況からなかなか抜け出せず就職難もいっそう厳しさを増しています。

 これでは将来に対する夢も展望も持てませんよね。

 本当に研究者になれるのか分からないし、どこにも就職できないのでは、というあなたの心配も痛いほど分かります。夢を取るか現実を取るか。実現したい夢だからこそ悩んでいるのだと思います。

 あなたにとっていま夢に向かって勉強を頑張ることは、必ずいい方向に道が開けると思います。

 漠然と就職に有利な学校に入りたいということの方が夢物語にすぎません。

 それでは、目標が見えず頑張れないと思います。

 ここは研究者になりたいという夢を力に変えて現実的な目標として頑張ってみてはどうでしょうか。

 私も小学生のときから宇宙が好きで将来は宇宙飛行士か研究者になりたいと思っていました。

 そして勉強して大学に入って地球惑星科学を学びました。いまは違う道に進んでいますが、あのとき頑張った経験は今でも生きていると思います。

 何もせずにあきらめていたら何も道は開けません。

 まだ高校生のあなたには大きな可能性があります。猛勉強しないと実現できないかもしれませんが、目標があれば人は頑張れるものです。

 ぜひ夢に向かってチャレンジしてほしいと思います。応援しています。


第41代日本ウエルター級チャンピオン 小林 秀一さん

 東京工業大学卒。家業の豆腐屋を継ぎながらボクシングでプロデビュー。99年新人王。03年第41代日本ウエルター級チャンピオン。


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