2010年2月15日(月)「しんぶん赤旗」

地デジ移行 浮かんだ課題

アナログ停波2度目「試行」

石川・珠洲市


 テレビが地上デジタル放送(地デジ)に完全移行する2011年7月24日まで残り1年半。石川県珠洲(すず)市でアナログ放送を48時間停止するリハーサルが行われました。全国的には準備の遅れなどで期限までの移行が危ぶまれる中、珠洲の実験で浮かび上がった「教訓」を探りました。(佐藤研二)


全国的に準備遅れ

 能登半島の先端に位置する珠洲市(人口約1万7700人)。リハーサルは先月下旬の2日間、市中心部と能登町の一部約7500世帯を対象に実施されました。昨年7月に1時間停止したのに次ぐ2度目の実験です。

 アナログ波が停止されると、アナログテレビの画面が青色の「告知画面」(民放は“砂嵐”画面)に切り替わりました。しかし、市内では特に混乱した様子はありません。期間中に寄せられた問い合わせも、「チューナーの使い方がわからない」など49件にとどまりました。

 「リハーサル成功」の背景には、国や自治体、業界をあげた手厚い支援がありました。

 決定的だったのが、アナログテレビに取り付ける地デジチューナーの「貸与」。国の負担で1世帯あたり最大4台(民宿などの事業所では必要な台数)を貸し出すことで、1年前は6割程度だった地デジ普及率を、ほぼ100%に引き上げることに成功しました。

 市内で民宿を経営する男性(75)は、「不況でテレビの買い替えは死活問題だったが、客室の10台すべてにチューナーを付けることができた」と胸をなでおろします。

 地デジ移行を知らせる広報活動も、珠洲に特別に設けられたデジサポ(総務省テレビ受信者支援センター)を中心に、地域の電器店が全戸訪問して説明するきめ細かさです。

 しかし、全国レベルではどうでしょう。地デジチューナーの配布は、生活保護世帯などNHK受信料免除世帯に1台のみと厳しく限定。デジサポの説明会は7万回開かれましたが、政府の「事業仕分け」でも「効率が悪い」と指摘されるほど。珠洲で行った支援体制とは雲泥の差です。

 リハーサルの準備をしてきたデジタル放送推進協会の木村政孝理事は「珠洲市は恵まれた環境を作ることができたが、全国的にはまだまだハードルが高い」と率直に認めます。

 さらに、珠洲市では全戸に民間のケーブルテレビ(CATV)が整備され、6割を超える世帯が利用していたという利点がありました。それでも、加入金と工事費が7万〜9万円(半額程度を市と業者が補助)かかるうえ、月額料金は最低でも1050円です。

 最近CATVに加入した女性(64)は、「テレビを買い替えてCATVに加入したら15万円かかった。それに月1000円は高い」と渋い表情。市総務課によると、CATVに入らないと地デジが見られなくなる難視聴地域でさえ、まだ13世帯が加入していないといいます。

停波計画見直しを

 現在、全国での地デジ受信機の世帯普及率は69・5%(約3480万世帯)と、目標の72%を下回るペースです。深刻なのは、ビル陰などの共聴施設(約5万施設、600万世帯利用)のデジタル化改修で、改修済みの施設は2割台にとどまっています。

 総務省や業界でつくる地上デジタル推進全国会議が昨年12月に出した「デジタル放送推進のための行動計画(第10次)」では、「アナログ放送を当初の予定どおり終了させるためには、さらに厳しい道のりが待っていると言わざるを得ない」と危機感を表明しています。

 昨年6月に地デジに完全移行したアメリカでは、地デジ受信機の普及の遅れなどの理由で、2度もアナログ停波を延期してきました。

 そのアメリカに、総務省や放送業界は昨年7月から8月にかけて調査団を派遣。報告書では、アメリカの移行が「おおむね成功」した要因として、「特に、移行期限の延期が結果的に功を奏した」と端的にのべています。

 しかし、民主党政権からは、「延期」「見直し」の声は一切聞こえてきません。自公政権時代の無謀なアナログ停波計画をそのまま引き継ぐ姿勢が、いま大きく問われています。


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