2010年2月1日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
牧草中心の酪農を
防げ 離農・地域の崩壊
党地区委が「再生プラン」 シンポで活況 対話の輪
北海道釧根地方
今年の生産者乳価を決める、政府、メーカーとの乳価交渉が始まります。大酪農地帯の北海道釧根地方(釧路、根室管内)では、昨年11月末に日本共産党釧根地区委員会が開いた「酪農政策を考えるシンポジウム」が、年がかわったいまも話題になっています。
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霧多布(きりたっぷ)湿原がある浜中町の山本敦さん(48)、佳子さん(45)夫妻は、吹雪の日も牛舎で牛の世話をしていました。搾乳牛80頭と和牛など130頭を飼育しています。
「普段、牛舎で12時間は働いています」と佳子さん。シンポのあった日(11月28日、別海町)は「時間をさいて絶対出たいと思って行ったの。参加してとても勉強になった。考え方の違う人との話し合い、何度もやってほしい」と言います。
山本さんは8年前まで乳牛がいまの半分程度でした。「3人の子どもの将来を考え」5000万円かけ立派な牛舎を建てました。その元金と利息の返済に追われるように頭数を増やしました。牧草では限界があり、穀物飼料を増やしました。一昨年、穀物飼料の高騰に直面し、大きな負担増を強いられました。
敦さんは「高騰でエサの量を抑えたら、乳量は減るし繁殖障害も起きてしまった。牛は牛舎に入れっぱなしで、自然からどんどん離れてしまう。共産党の『釧根酪農再生プラン』のように、釧根の自然や環境を生かした牧草中心の酪農が大事だな」と言います。
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「釧根酪農再生プラン」(別項)は、党員の酪農家、獣医師、議員などでつくる酪農政策研究会(竹内健児委員長)が2年間かけて議論し昨年5月に発表しました。グラフもたくさん入れたきれいな冊子にし、地域の農家全戸に配りました。
130人参加した同シンポでは、地元の農協組合長2人が初めてパネリストを引き受けて話題になりました。
釧根の酪農家数は、「規模拡大」「輸入自由化」を強行した自民党農政のもとで、この30年間に5440戸から2640戸へと半減しました。同研究会の竹内委員長(獣医師・党浜中町議)は「酪農家が減ると地域に子どもがいなくなり、学校や郵便局、商店もなくなり、地域の崩壊が起きてしまう。その危機感が土台になっています。地域を再生していくにはどうするか、みんなで率直に議論しあって『プラン』を練り上げました」。
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11万頭の乳牛がいる別海町の中村保彦産業振興部長代理は「共産党が提案する、草に依存した酪農、国民の食料を守る『国境措置の維持・強化』というのは非常に大事だと思う。ヨーロッパでは国の政策と消費者の理解で自給率をぐっと引き上げている。いまその国民的合意が必要です」と強調します。
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別海町で搾乳牛120頭を含む180頭を飼育する大規模農家の相和(そうわ)宏さん(67)も参加しました。「いままで(共産党は)偏った意見だと思っていたが、組合長も出ていたし、いろんな人が自由に意見が言えてよかったね。ただ、この間の輸入自由化、肉や乳価の暴落で規模拡大は避けて通れなかった。その現実もしっかり見てほしい」と話します。
シンポ実行委員の一人、別海町の森高哲夫さん(59)は、「2年前の農業公共事業シンポの時と周囲の反応が全然違った。元農協幹部や農業委員、地域の自民党の幹部にも思い切って声をかけた。そしたら、初めての人がたくさん来てくれ、驚いた。これを出発点に『プラン』を広く持ち込んで対話し、よりよい中身にしていきたい」と言いました。(富樫勝彦)
釧根酪農再生プラン 「今日の酪農危機の背景」として歴代の自民党農政の問題を指摘し、(1)釧根の自然・風土に適した「草に依存する酪農」の発展(2)家族経営を中心にした適正規模・低投入型(あまり外部からの資材を持ち込まない循環型)の酪農経営を柱にすえる―を提案。
「釧根には酪農を多面的に発展させる条件はある」とし、(1)価格保障を基本に、所得補償を組み合わせ、乳価を保障する(2)適正規模で環境に負荷を与えず自己完結できる循環型酪農の確立(3)関税など国境措置を維持・強化し、「食料主権」を保障―など「六つの提言」をしています。
あり方を見つける好機
マイペース酪農提唱 三友盛行さん
釧根の酪農は、原野を切り開き冷涼な地方で、牧草1ヘクタール当たり乳牛1頭を基準にやってきました。それが政府の規模拡大・効率化の政策誘導で、エサを輸入穀物に依存する「ゴールなき規模拡大」に入ってしまいました。
共産党の、(1)草に依存する酪農の発展(2)適正規模・低投入型経営を柱にしよう―という提起は非常に大事だと思います。環境保全、安心・安全な酪農の基本であり、消費者の理解も得られるものです。
私たちはふん尿をしっかり活用していい土をつくり、いい草でいい牛乳を出すという循環を大事にしています。
大規模農家も、小規模の人も、ともにその役割を果たし、経営が成り立つよう、私は(1)現状維持の経営にも補助や融資対策をとる(2)乳価を土地利用型の基本乳価と、選択制乳価の2本立てにする―ことを提案しています。
日本の農業、酪農、食生活をどうしていくか、生産者も消費者も大いに議論し、あるべき方向を見つけ出していく、いまがいいチャンスだと思います。
乳価保障は共通の願い
シンポのパネリスト 紙智子参院議員
シンポの翌日の北海道新聞が、「2農協組合長、異例の登壇」と書きました。これは経営規模の大小にかかわらず、多様な農業を応援するという、党の「酪農再生プラン」への共感でもあります。
生産コストをカバーできる価格保障を基本に、所得補償を組み合わせて乳価を保障していくことは、酪農地帯の共通の願いです。経営規模も現状はさまざまですが、環境に負荷を与えず牧草を利用した循環型の酪農への願いも共通しています。
「プラン」は、冷涼な自然や風土に適し、先人の血のにじむ苦労と努力で切り開かれた酪農のあり方を深く検討し、幅広く意見を聞き、「草に依存する酪農」を家族経営を中心に発展させようと打ち出しました。これが共感を広げ、シンポジウムへの参加を広げる力にもなりました。
人と牛、自然が一体になり地域全体が活力を取り戻すにはどうするか、生産者、消費者が一緒に考える非常に良い機会であり、私も国会で頑張りたいと思います。
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