2010年1月23日(土)「しんぶん赤旗」

「アラー」の呼称めぐり対立

教会襲撃や放火

マレーシア


 マレー系、中国系、インド系の人々が共存する多民族国家マレーシアで、多数派マレー系の一部イスラム教徒が中国系の信者が多いカトリック教会を襲撃したり、建物に放火する事件が続いています。

 昨年末に高等裁判所が、カトリックの週刊紙ヘラルドのマレー語版がキリスト教の「神」に当たる言葉として「アラー」という単語を使用したのは「合憲」だとの判決を言い渡しました。

 一連の襲撃事件は、この判決への反発とみられています。

 マレーシアでは憲法で宗教の自由が保障されており、カトリック系メディアのマレー語版は、これまでも「アラー」を使用してきました。ところが、今回、政府が、「アラー」という言葉はイスラム教徒だけが使用できるとしてヘラルド紙に使用禁止を指示。これにたいしヘラルド紙側が「受け入れられない」として提訴していたのにたいし高裁の判決が出されたものです。

 政府は2年前から同じ主張をしており、内務省は4日、高裁の判決を不服として上訴裁判所に控訴しました。

 教会への放火や襲撃事件にたいしては、ナジブ首相ら政府閣僚、与野党がこぞって厳しく非難しています。

 その一方で与党連合・国民戦線の中核政党UMNO(統一マレー国民組織)やマレー語の新聞は、「キリスト教関係者の間での『アラー』の使用を禁止せよ」と主張。これにたいし、野党の多民族政党、人民正義党(PKR)や中国系の民主行動党(DAP)、全マレーシア・イスラム党(PAS)、中国語や英語の新聞は、事件を糾弾するとともに「国民の団結」を訴えています。

 事件の背景には、マレー系を教育、就職、企業経営などで優遇するブミプトラ(マレーの土地に生まれた人々の意味)政策を今後もそのまま続けるかどうかの論争があります。

 この政策は、「工業国化」や経済発展を達成した一方で、少数派民族への「富の分配」をめぐっては評価が分かれます。中国系とインド系の反発がここ数年表面化し、一昨年の総選挙では物価上昇への国民の不満ともあいまって与党連合が議席を大幅に減らしました。

 こうした状況へのマレー系の危機感や、経済成長に取り残された貧しいマレー系の強い不満や怒りがゆがんだ形で表明されているとの指摘もあります。(宮崎清明)


 マレーシアの多民族社会 人口約2700万人のうち、マレー系が66%(主にイスラム教徒)、中国系が26%(仏教及びキリスト教)、インド系が8%(ヒンズー教)をそれぞれ占めています。1969年5月、経済的に貧しいマレー系住民が、経済界で影響力の強い中国系住民を襲う暴動が発生。その後、ブミプトラ政策が採用されました。


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