2010年1月9日(土)「しんぶん赤旗」
主張
農業者戸別所得補償
農政転換の契機にするために
正月のごちそうで、食生活の豊かさを実感された人は多いと思います。しかし、日本の農業は、効率一辺倒、大企業の利益最優先の自民党政治がもたらした、食料自給率の低落、農業従事者の激減と耕作放棄農地の増大など、深刻な危機に直面しています。
この農業を立て直すことは、国政の重要課題です。先の総選挙で示された農業関係者の意思も、それを強く求めたものでした。
大規模優先を変えて
新年度の予算案とあわせて、鳩山由紀夫政権が目玉にしてきた「農業者戸別所得補償制度」の内容が発表されました。
原案が予算編成過程で歳出を削る「事業仕分け」の対象にされ、農業関係者からも補償すべき米の生産経費が農家の所得分になる家族労働費を80%しか対象にしていないことや、麦や大豆、雑穀、野菜などの生産助成が全国一律にされるため前年より減収するなどの声があがっていましたが、ほぼ原案通りの内容となりました。
今回明らかになったのは「モデル対策」で、「水田再利用自給率向上事業」と「米戸別補償モデル事業」の2本柱になっています。今年中に制度を本格実施する法案が提出されることになっています。
前者の「水田再利用」では、麦、大豆、飼料作物、ソバ、ナタネなどを水田に作付けした生産者に、対象作物ごとに10アールあたり3万5千円から1万円を全国一律で助成します。全国一律としたため、これまでは「転作助成」で地域の重点作物として助成されていた作物の収入が大幅に減る地域がでるとの批判が出たため、激変緩和の措置がとられることになりました。
後者の「米モデル事業」は、政府が決める生産目標(割り当て)にしたがって米を生産するすべての農家に10アール当たり1万5千円の定額助成をおこない、当年産の平均販売価格が標準的な生産に要する費用を下回った場合にはその差額を変動部分として交付します。
この政策は、減反を押し付けるが米価暴落による所得減になんらの手だてもとらず、大規模経営だけに政策を集中させてきた自民党農政からみれば、大きな転換です。戦略作物の助成に激変緩和措置を取り入れさせたことなど、関係者が声をあげれば政策に反映させられることを示しています。
とはいえ「農政を新しい段階に導く歴史的な意義をもつ」(赤松広隆農水相)とはいえず、重大な問題も持っています。
一つは、家族労働費を80%に抑え、単価を全国一律にしたため、多くの地域で生産者の苦境を打開しないことです。もう一つは、ミニマムアクセス(最低輸入機会)米の輸入は強行し、国内農業に壊滅的な打撃をあたえるWTO(世界貿易機関)交渉や貿易自由化協定は推進していることです。三つめは農業予算全体では総額が前年を下回り、総予算に占める割合は3%以下と過去最低で、食料・農業政策の位置づけが非常に脆弱(ぜいじゃく)なままだということです。
さらに前にすすめるには
こうした問題をただしながら、効率一辺倒からの脱却をさらに進めることが重要です。農業の位置づけを基幹産業にふさわしく高め、戸別所得補償政策の充実をはじめ、農業と地域経済の再生の本格的な政策に前進させることが食料・農業をめぐる今年の大きな課題です。
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