2010年1月6日(水)「しんぶん赤旗」
主張
「成長戦略」
財界に歓迎されて役立つのか
年末・年始の「公設派遣村」には前年の「年越し派遣村」の倍近い人が駆け込むなど、失業問題はますます深刻になっています。
トヨタは昨年12月、部品価格をさらに引き下げるよう下請けに要請しました。仕事の消失と下請け単価たたきで、中小零細企業は存亡の瀬戸際に立たされています。
厳しい経済危機から国民の暮らしと営業を守り、経済を立て直す戦略が問われています。
「第三の道」と言うが
政府は昨年末に「新成長戦略」の基本方針を決めました。鳩山由紀夫首相は「国民の皆さんに希望を持っていただくための成長戦略」だと強調しています。
しかし、2020年度までに「100兆円超の『新たな需要の創造』」、「経済規模650兆円」など、大きな数字を並べるだけでは希望は生まれません。
政府は「新成長戦略」を、「公共事業による経済成長」でも「構造改革」でもない「第三の道」と呼んでいます。
「新成長戦略」は環境分野や健康関連産業、アジア市場、観光・地域活性化など6分野の戦略を掲げています。その大枠は、自公・麻生政権が昨年の「骨太方針」に盛り込んだ「成長戦略」と変わりがありません。自公政権の司令塔として君臨してきた財界も、「目指す方向は一致している」と「新成長戦略」を評価し、早期実行を求めています(日本経団連の御手洗冨士夫会長のコメント)。
「骨太方針」と変わらず、しかも「構造改革」を推進した財界が歓迎するような中身を、「第三の道」などと言えるでしょうか。
希望が持てる経済戦略だと言うなら、国民の希望を打ち砕く日本経済のゆがみの大もとにメスを入れる必要があります。働いても働いても庶民の暮らしが良くならないばかりか、「ワーキングプア」が広がる経済のあり方を変えない限り、希望はわいてきません。
大型公共事業の大盤振る舞いや大銀行支援、「構造改革」によって、大企業や大銀行は大もうけをあげてきました。ところが家計や中小零細企業の経営は、ますます苦しくなっています。この10年で雇用者報酬は27兆円も減り、17年前の水準に戻ってしまいました。政府が財界の要求に従って労働法制の規制緩和を進め、大企業が正社員を非正規雇用に置き換え、身勝手な「非正規切り」と賃下げ・リストラを推進したからです。
その一方で大企業は役員報酬や株の配当を増やし、巨額の内部留保をため込んでいます。
国民が汗水たらして生み出した富を、一部の大企業と大資産家が吸い上げ、貧困と格差を広げる―。この日本経済の大きなゆがみが経済危機の根源にあります。
「財界中心」の脱却こそ
ゆがんだ経済の転換を図るには何より大企業の内部留保を社会に還元させることです。そのためには最低賃金の抜本引き上げや労働者派遣法の抜本改正、下請け単価の引き上げなど、大企業に社会的責任を果たさせる「ルールある経済社会」への改革が急務です。
自公政権の社会保障の削減路線がつくった「傷跡」を速やかに修復することも極めて重要です。
財界が手放しで歓迎するような戦略では役に立ちません。「財界中心」の政治からの脱却こそが求められます。