2010年1月5日(火)「しんぶん赤旗」
福祉施設も基準緩和の動き
「国の責任放棄の流れ」
関係者から懸念の声
介護や障害者、児童などの福祉施設の最低基準が、「地域主権」の名で原則として地方自治体の条例に委ねられようとしています。鳩山内閣は今年の通常国会に地域主権推進一括法案を出し、条例委任を進める構えです。
保育所の基準緩和が注目されていますが、問題は保育所にとどまらず、福祉施設全般に及びます。全国身体障害者施設協議会、全国児童養護施設協議会など福祉関係12団体が昨年10月、長妻昭厚生労働相に「(最低基準は)ナショナルミニマムとして福祉の根幹を成すもの」で、「(廃止・条例委任に)断固として反対」との要望書を出すなど、懸念が広がっています。
政府は、最低基準について、居室面積や職員の人数、職員の資格要件などは、国の基準を引き続き守らせるとしています。それでも関係者からは、「福祉が地方任せになり、国の責任が後退する」との不安の声が出ています。
東京都や茨城県の児童養護施設に三十数年勤め、いまは都内の児童養護施設長の黒田邦夫さんは、「施設の運営を支える国の措置費(補助金)の額は、最低基準の水準を維持するのに必要な額という根拠で計算されています。基準が地方ごとにバラバラになれば、国が措置費をいまの水準で出す根拠もなくなる。財政力の弱い地方ほど、不安は深刻です」と語ります。
児童養護施設
児童養護施設では、保護者が育てられない18歳までの子どもが暮らしています。入所児の約6割を虐待被害児が占めるなど、まさに子どもの命を守る防波堤です。08年度は、全国564カ所に約3万人が入所しています。
児童養護施設の最低基準では、1部屋当たりの定員が「15人以下」とされています。黒田さんは「以前、特養老人ホームで人権問題だと指摘されたのは4人部屋でした。それと比べても『15人以下』とはあまりにひどい。最低基準はせめて4人以下にというのが私たちの長年の要求です」と語ります。
この定員基準は戦後60年もの間、見直されていません。
集団規模が小さい方が子どもの環境としてふさわしいのは明らかで、政府も、6人一組を地域で生活させる「地域小規模児童養護施設」という制度をつくっています。しかし、実施には自治体の負担が必要なため、昨年2月1日時点で、実施していないところが10府県8政令市にものぼっています。
「このうえ自治体任せにすればさらに格差が広がり、子どもや職員の処遇低下が懸念される」と黒田さんは語ります。
障害者福祉
障害者福祉でも、同様の懸念が指摘されています。
障害者自立支援法のもと、それまで国が行っていた、目の不自由な人や知的障害者などの外出を支援するガイドヘルプ事業や手話通訳派遣事業などは、市町村が独自に行うこととされました。この結果、自治体の財政規模によって格差が生まれ、市町村によって利用できる上限時間が違ったり、利用料にも差がついたりしています。
鴻沼(こうぬま)福祉会(さいたま市)の菅井真さんは言います。「ガイドヘルプ事業などが国の制度として運用されていたころは、障害者は希望通りの時間が確保できました。自立支援法で福祉が国から地方に丸投げされてから、利用できる時間が大幅に減らされてしまいました。地方分権の名でさらにそれが進められたら、地域間格差がますます広がる。国の責任を放棄する流れには懸念を覚えます」
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