2009年12月31日(木)「しんぶん赤旗」
日本郵便 けん引車死亡事故
「効率優先」の犠牲
運転訓練・マニュアルなし ■会社は「本人のミス」
日本郵便銀座支店(東京都中央区)で、郵便物を運ぶけん引車が転落し、運転していた男性労働者が亡くなる事故が起きました。「本人の操作ミス」でことを済ませようとする会社(郵便事業会社)に対し労働者たちは、背景にある安全軽視、「効率」優先の経営の改善を求めています。(細川豊史)
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「けん引車がエレベーターに向かって斜めにバックして突っ込み、エレベーターの扉を押し開いて転落してしまった。一瞬のことだった」(事故を目撃した男性労働者)
事故は、14日午後9時20分ごろに起きました。亡くなった男性=当時(59)=は、書留などを扱う特殊郵便課所属。郵便物を他の支店に発送するトラックの出発場所まで運搬する業務をしていました。作業では、郵便物を入れたパレット(車輪つきのかご)を数台つなげたけん引車を使います。
見よう見まね
男性は1階でパレットを下ろした後、2階に上がり、エレベーター前で方向転換しました。その時、後進しながらエレベーターに斜めにぶつかって後部の連結フックが右開きの扉を押し開き、エレベーターのかごがなかったため1階に転落。けん引車の下敷きとなり、頭を強打して亡くなりました。
けん引車はハンドルに遊びがなく、わずかな操作が急激な動きにつながるなど、運転は簡単ではありません。
しかし会社は、労働者に訓練をさせずに運転させ、運転マニュアルも配布していませんでした。運転は見よう見まねで、同僚が教え合って覚えているのが実情です。
メーカーのマニュアルは事業者が指名した人以外の運転を禁止しています。しかし実際には、指名そのものが行われず、アルバイト労働者を含めて誰もが運転しています。
亡くなった男性は自動車の運転免許も持っていませんでした。男性の妻は「運転したくないと漏らしていた夫になぜ運転させたのでしょうか」とふに落ちない様子で話しています。
エレベーターの扉が、かごがない時に開くことを防ぐ安全対策もとられていませんでした。
さらに、人員削減による要員不足や業務の多忙化の問題もあります。
労組「改善を」
亡くなった男性は、詩をつくることが趣味で、「9条の会・詩人の輪」や、郵政労働者でつくる「東京中郵9条の会」に参加し、自費出版による詩集も発表していました。
現場の労働者によれば、事故現場のエレベーター前には花がそなえられていますが、会社は事故について労働者に説明せず、哀悼の意を示すこともしていません。ミーティングで「事故は本人の操作ミス。安全運転を」と呼びかけるだけです。
他方で会社は、事故後にエレベーター前に、けん引車の進路を示す白い矢印を引きました。理由は明らかにしていませんが、導線の確保・明示が必要だったことを示しています。
郵政産業労働組合(郵産労)銀座支部は25日、会社に対し、原因究明とともに、運転訓練や人員削減などの問題点をただし、改善を求める要求書を提出しました。
郵便事業会社は本紙の取材に対し、「けん引車の導線確保等、事故の再発防止に取り組む」としながら、事故に対する会社の責任などについては「調査中で現時点では答えられない」とのべています。
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