2009年12月21日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPRESS
トマトは助け合いの味
農の「担い手」育てたい
遊休農地を有機で復活
「ゆいまある」の挑戦
福島県二本松市で、農業の担い手を育てよう、と始まった有限責任事業組合「ゆいまある」が3年目になりました。若者への就労支援など、農業を通して人々の「助け合い」の輪が広がっています。(染矢ゆう子)
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「ゆいまある」は、福島県農民運動連合会(農民連)が、耕作する人がいなくなった遊休農地の活用のために始めたとりくみです。市民が年会費を出し合い、生産者と共同して農業の「担い手」を育てます。
冷たい安達太良(あだたら)おろしが吹きつける、安達太良山のふもとに「ゆいまある」のトマト畑があります。もともとは、遊休農地でした。
昨年まで肝心の「担い手」は定着せず、福島県農民連の根本敬事務局長と近所の橋本義弘さん(63)らが作業していました。
若者たちと
4月から国の助成を受けて、頼もしい「担い手」がうまれました。収穫したトマトを原料にしてジュースへの加工も行い、ゆくゆくは「担い手」の生活を支える重要な収入源になる予定です。
4月から「担い手」になった佐川一郎さん(38)は、就労支援を行うNPO法人ビーンズふくしまの若者たちと一緒にトマト畑で「マルチ」と呼ばれるビニールの覆いはがしに汗を流していました。
「マルチ」はトマトの苗を守る黒いビニールです。はがすと、毛虫やミミズがもぞもぞと出てきました。「(トマトの成長に欠かせない)有機物がある証拠です」と佐川さんは喜びます。
「植物本来の力を引き出したい」とトマト作りは土にこだわります。化成肥料は使わず、もみがらや雑草を腐食させて、有機物をふやすのです。雑草を抑えるためにムギを植え、そのムギも土に返して肥料にします。
佐川さんは土も日光もいらない水耕栽培工場で働いた経験があり、「大切なのは日光と土」だという言葉に重みがあります。
農業の魅力は手間をかけただけ、見返りがあることだといいます。昨年に比べてトマトの生産は3倍になりました。
現在、4000本分のジュースをしぼり、100人いる「ゆいまある」会員に届けています。
トマトジュースの味は、「こくがあり、おいしいですよ」とビーンズ職員の佐藤亨弘さん(22)。
会員は年会費(1万1500円)を払えば、年3回トマト、リンゴ、ニンジンの計12リットルのジュースが届きます。
「無添加でおいしい、安全・安心のジュース」だという会員の口コミで、今年も完売しました。
佐川さんが「ゆいまある」と出合ったのも、トマトジュースがきっかけでした。
昨年末、所属する男声合唱団の交流会が行われました。
そこで出された「ゆいまある」のトマトジュースを飲み、「どろっこい(どろっとしている)」と感じました。
今年1月、農業イベントで「ゆいまある」を紹介した福島県農民連の根本さんと名刺を交換。32歳で就農し、現在果樹園を営むという佐川さんの経歴を聞いた根本さんに「ちょっと待って」と引き止められ、「その熱意に負けて、引っ越してきました」(佐川さん)。
市長も会員
「ゆいまある」の目的の一つは、遊休農地を起こして収入を得られるようにすること。
佐川さんのアイデアで、遊休農地を開墾して雑穀栽培を始め、五穀米を商品化しました。山を切り開いた後の遊休農地にはドングリを植えて、山に戻すことも計画中です。
「ゆいまある」の畑の周囲にも遊休農地があちこちに点在します。セイタカアワダチソウなどの外来種が根をおろし、周りの農地に種を落とします。住民全体で考えないといけない問題です。
福島県は遊休農地が全国一多く、「ゆいまある」のとりくみは、農業関係者や自治体関係者から注目されています。
畑のすぐ下に住む三保恵一市長も会員の一人。秋に行われた収穫祭に参加し、「今年は(トマトの出来が)いいんでないかい」と喜びました。
「ゆいまある」は「担い手」の成長、技術の継承も大切な目的です。福島県農民連の根本さんは「『ゆいまある』とは、みんなで助け合って生きていくという沖縄の言葉です。生産者、消費者、企業…それぞれが得意を生かして、食と農の担い手を育てたい」と言います。
運営にはデザイン会社の社長やソフト会社の社長など多彩な顔ぶれがかかわります。
「人との出会いが財産。仕事をしながら勉強させてもらっています」と佐川さん。
汗流し充実
作業を手伝うビーンズの若者たちの存在も大きいといいます。
その一人、スコップを手に汗を流す若松淳さん(35)は「働いた日は充実した感じ」と話していました。
「農業の担い手になるうえで大切なのは、地域にとけこんで好かれること」と話す根本さん。佐川さんに「農業で自立するには伴侶を得ることにどん欲であれ」とアドバイス。
それを聞いた佐川さん。「来年の目標は『ゆいまある』会員を増やして経営を安定させること。そして、同じ志をもつ人生のパートナーも募集しています」と言って笑いました。
減り続ける農家
全国で農家の減少が止まりません。農産物を出荷・販売している、いわゆる販売農家は、09年2月現在、169万戸で前年に比べ5万1千戸減りました。この10年で65万戸減少しています。若い人たちに農業への関心が高まっていますが、08年度の39歳以下の新規就農は年1万4千人程度です。
「ゆいまある」の連絡先
電話 0243(53)2426、電子メール f.yuimalu@gmail.com
お悩みHunter
受験生だけど初詣でいきたい
Q 中学3年の受験生です。家庭の事情で公立高校の一般入試だけを受験します。2学期の期末試験の成績があまり良くなくて、親からは「正月も遊ばず、勉強しろ」と言われました。中学生最後の冬休みだし、友だちとの初詣でくらい許してもらいたい。でも、今年は公立高校を受験する人も多いようだし…。アドバイスをお願いします。(15歳、男性)
適度な“遊び”でやる気もわく
A 家庭の事情で公立一本というのは厳しいですね。でも、逃げずに立ち向かおうとしているあなたはすごいと思います。
心配する親の気持ちがわかるからこそ、あなたの悩みも深くなるのでしょうね。
ですが、友達と初詣でに行く時間まで惜しんでひたすら勉強だけに打ち込むというのには賛成できません。
というのも、一つのことだけに長期間集中しすぎるとストレスがたまり、イライラが募って能率も低下するからです。
むしろ、適度な“遊び”を取り込んだ方が、身も心もリラックスできます。
心身をじょうずにコントロールすると、新たな意欲がわいてきて、同じ1時間の勉強でも、2時間、3時間分の効果を上げることも可能です。
思い切って友達と初詣でに出かけ、愚痴をこぼし合ったり、合格を祈願したりすると、気分転換ができるだけではなく、やる気もわいてくるはずです。
また、初詣での日までにこの問題集をここまで終わらせておこうとか、3学期の始業式までに何をやりきろうとか、具体的な短期目標を決めておくと、効率よく勉強することができるでしょう。
この達成感と自信が、本番までの学習効果をさらに上げてくれます。
大胆に自分にチャレンジしながら、受験をおそれず、新しい可能性を信じて、初詣でも受験勉強も楽しめるといいですね。
教育評論家 尾木 直樹さん
法政大学キャリアデザイン学部教授。中高22年間の教員経験を生かし、調査研究、全国での講演活動等に取り組む。著書多数。
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