2009年12月19日(土)「しんぶん赤旗」
金融取引税に脚光
仏・英首脳「グローバルな基準必要」
EU、IMFに導入検討を指示
金融取引に課税する金融取引税が脚光を浴びています。欧州連合(EU)が国際通貨基金(IMF)に検討を指示し、導入を求める国際的な運動に弾みをつけています。(金子豊弘)
「良いアイデア」
EUは10、11日にブリュッセル(ベルギー)で開いた首脳会議で、IMFに対して金融取引税の導入の検討を求めました。EUの執行機関である欧州委員会のバローゾ委員長は15日、欧州議会の質疑で金融取引に世界的に課税することは「とても良いアイデア」と強調しました。
フランスのサルコジ大統領とイギリスのブラウン首相は共同で米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿(電子版9日付)。「今日、グローバル化した経済にはグローバルな金融基準が必要だ」とし、金融取引税の導入を提起しました。
9月にアメリカのピッツバーグで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議で採択された首脳声明では、金融危機にあたっての金融業界の負担問題についての検討をIMFに求めていました。しかしそこでは、具体的な税項目の明示はなく、抽象的に金融業界の「負担」あるいは「貢献」にとどまっていました。
IMFのストロスカーン専務理事はこの間、「課税の対象は取引ではなく、そのほかのものになる」と発言し、金融取引税については検討しない考えを示してきました。ところがここにきて、IMFのリプスキー筆頭副専務理事が「(金融取引への課税を含めた)幅広い課題や選択肢を取り上げることになる」(11月30日)と発言。IMFは金融取引税をはじめとするさまざまな選択肢を視野に入れた検討を行っていることを示しました。一方、米国のガイトナー財務長官は金融取引税に否定的な考え方を示しています。
国際連帯税の一つ
金融取引税は、低率の税率を国際的な金融取引に課税するもの。為替に低率の税金を課税することで金融投機を抑制しつつ、税収を貧困対策や地球温暖化対策に使用するものとして考えられているのが通貨取引税です。国境を越える特定の経済活動に課税して、貧困や環境対策の財源にする国際連帯税の中心的存在です。国際連帯税には、このほか、航空券税や武器取引税、多国籍企業税など課税対象の違いによって、そのいくつかの種類があります。航空券税はすでに導入されています。
通貨取引税が提唱されたのは、1970年代初頭のことでした。提唱者の名前からトービン税として知られています。40年近くの年月を過ぎていま、注目を集めているのは、NGO(非政府組織)などの運動があったからです。
「昨年来の金融危機の結果、金融市場の限界が露呈した。人々は金融業界とその幹部にたいする怒りを表明している。通貨取引税の導入には好機だ」。10月にフランスで開かれた「開発のための国際金融取引に関するタスクフォース閣僚級会合」で、あるNGO代表は、こう指摘しました。国際援助団体のオックスファムは、米ドル、円、ユーロ、英ポンドの四つの通貨に0・005%の通貨取引税をかけることを提言しています。これで、年間330億ドルの税収が得られると試算しています。
日本の市民運動も
日本の政府内でも議論が始まっています。外務省は来年度の税制「改正」要望で「国際開発連帯税」の新設を要望。11月27日の政府税制調査会では、通貨取引税が議論されました。西村智奈美外務大臣政務官が「国内外の議論の動向を踏まえつつ、課税対象、それから使途、使い道などについて関係省庁とも協力をして議論をしてまいりたい」と発言しました。
幅広い市民運動が、日本政府を動かす力になっています。今年4月、研究者やNGOの代表などが集まって、国際連帯税推進協議会(座長・寺島実郎三井物産戦略研究所会長)が発足。通貨取引税の導入を求めて、近く中間報告を発表する予定です。