2009年12月16日(水)「しんぶん赤旗」
福祉施設
国基準を原則撤廃
地方分権計画を閣議決定
政府は15日、国が保育所などの福祉施設の設備・運営について定める最低基準のうち、一部を例外的に地方が「従うべき基準」として残す以外は、地方の条例に委任することを柱とする地方分権改革推進計画を閣議決定しました。
職員の資格要件、職員配置基準、居室の面積基準、「人権侵害の防止」にかかわる基準についてのみ国の基準を維持します。
焦点となっていた認可保育所の最低基準については、東京などの一部地域について子ども1人当たりの面積基準を地方に委任します。待機児童解消までの措置としていますが、期限はありません。その他の地域については、居室面積や職員配置基準は現行の国基準を維持しますが、園庭や医務室の設置、耐火上の基準、避難経路の確保などについては全国的に地方任せになります。
認可保育所だけでなく、家庭の事情で親と離れて暮らす子どもの児童養護施設、障害児・障害者施設、老人福祉施設、介護施設など福祉施設全般について、同様の例外を除いて原則として地方に委任します。
また、非行を繰り返す子どもを指導する児童自立支援施設の職員について、都道府県職員をあてるとしてきた規定を廃止し、民間委託を認めました。
政府は、これらに対応する法改定を行うための「地域主権推進一括法案」を来年の通常国会に提出する方針です。公立学校の学級編成基準や教員定数は今後の検討基準としました。
解説
保育所の最低基準緩和容認
子を守る歯止めなくす暴挙
保育所の最低基準は、「保育室の面積は、2歳児以上は子ども1人につき1・98平方メートル以上」などの施設基準、「0歳児3人につき保育士1人」といった職員の配置基準、避難経路・耐火など安全にかかわる基準などについて、最低限度のものを、国が全国一律に定めたものです。
15日に閣議決定された地方分権改革推進計画では、このうち施設面積の基準を、東京など一部の地域で待機児解消までの一定期間、国基準より低い基準を自治体が独自に決めることを容認し、園庭の設置義務や耐火基準などについては全国どこの自治体でも独自に決めてよいとしました。
鳩山内閣は来年の通常国会に提出する「地域主権推進一括法案」に盛り込もうとしています。
最低基準の「最低」とは、「最低賃金」などの場合と同じように、“これより下回っては人間らしい生活が営めない”ことを意味する言葉です。現行の最低基準は国際的に見ても極めて低い不十分なものですが、少なくとも、子どもは全国どこの地域に生まれても、最低限度これだけは保障されるという歯止めとして、子どもを守る役割を果たしてきました。
この歯止めを国が取り払うことは、子どもの権利をないがしろにする、許されない暴挙です。最低基準が地方ごとにバラバラになれば、保育にかかわる国の補助金の根拠がなくなる恐れもあります。
最低基準の引き下げや地方への権限移譲を執拗(しつよう)に求めてきたのは、保育をもうけの場にすることを狙う財界です。
国基準よりも緩い基準で保育所設立を認めている東京都の認証保育所制度では、駅前型保育所の8割が株式会社立です。こうした事例を念頭に、「国基準を取り払えば、もっと企業が保育に参入できる」と財界は見込んでいるのです。
しかし、保育は人件費が圧倒的な割合を占め、もともと営利になじみません。人件費を節約しようと職員を不安定雇用にすれば、子どもと安定した関係が結べず、保育が成り立ちません。
児童福祉法に基づき、保育を国や自治体が公的に保障してきたからこそ、保育所は全国2万3千カ所に広がり、200万人を超える子どもが通う場として国民に根づいてきました。待機児が激増しているいま、公的保育制度の拡充こそが必要です。今回の政府方針は、この国民の願いに逆行しています。
保育事業者の団体や「保育園を考える親の会」「赤ちゃんの急死を考える会」など幅広い国民が、最低基準の地方移管に反対の声をあげています。
子どもが健やかに育つ環境を守るため、憲法や児童福祉法、子どもの権利条約などに根ざした国民の運動が、いっそう重要になっています。(坂井希)