2009年12月11日(金)「しんぶん赤旗」
子ども こんな詰め込みに
“現場検証”保育所の「最低基準」
基準引き下げ とんでもない
さいたま市で保育団体
「おふとんが重なってるよ」「息がつまりそう。ここに丸1日いなきゃいけないなんて」と親たち―。いま、鳩山政権が保育所の設置に必要な最低基準の見直しをすすめ、今でも不十分な基準を引き下げようとしています。何が問題なのか、保育関係者らによる実行委員会が主催した“現場検証”がおこなわれました。(都 光子)
検証現場に使われたのは、社会福祉法人こぐま会の、めだか保育園(さいたま市)。60人定員の認可園で、実際にそこに通う園児が“実演”してくれました。
隣の子どもとぶつかりそう
昼寝も窮屈 |
園内で一番ひろいホール。隅にはピアノがあります。約70平方メートル。ここだけで最低基準ぎりぎりなら33人定員の保育園がつくれる計算になります。実際に2歳児から5歳児の33人が入り、お昼寝や食事をする風景を作りだしました。
ゼロ歳児もいるとして、最低基準ぎりぎりの配置である保育士4人も一緒です。ふとんが敷き詰められていて、大きな子どもたちはでんぐり返しをするなど、大はしゃぎ。「ここで走り回っている姿を見慣れているので、こんなに押し込められるなんて想像できなかった」というのはめだか保育園に5歳と1歳の息子が通っている粂田真央(まなか)さん(35)。「ここに入る前は、マンション内の認可外保育園に預けていたので、それを思い出させるような光景ですね」といいます。
ドタバタと |
「僕たちも認可に入りたくて待っていたので、入れない親の気持ちはわかります。だけど、こんなぎゅうぎゅう詰めの保育園だったら、安心して預けられない」
もっとも窮屈だったのは2歳以上児の保育室。18人のクラスだと、保育室の面積は35・6平方メートル。ここに日常に必要な机やいす、ふとん、子どもの着替えはもちろん、絵本や遊具も備えなければなりません。そんななかで食べる、寝るといった生活を保育士とともに送ることになります。
おやつを食べるときには机といすを出します。ここの園では、低年齢児にもさせているので、ぶつかりあったり、行列になったりしながらの配ぜんに。昼寝のためのふとんは重なりあうように敷き詰め、隣の子とぶつかりそうでした。
子どもの感性失わせる環境
室内は雑然 |
めだか保育園の主任保育士、中村和子さん(52)は、「現場検証をやってみて、改めて怒りがこみあげてきました」と話しました。
「子どもの感性を失わせるような保育環境です。これが日本中に広がったらどうなるか」と最低基準の緩和の方向を危ぐします。「保育士は子どもの気持ちに寄り添いながら保育をします。もし最低基準以下の保育園だったら、私自身、保育はやれません。多くの保育士も、こういう環境では働き続けられないし、心が病んでいくでしょう」と。「基準を緩める動きは許せない、とみんなに話していきたい」
現場検証をおこなった主催団体のひとつである全国保育団体連絡会会長で、福島大学教授の大宮勇雄さんは、「待機児解消ということによる設置基準の緩和で、保育所はより多くの子どもを詰め込むことになるでしょう。そうなると、落ち着かない子どもが増えるのではないか」と指摘します。
さらに大宮さんは「いま、イギリスなど、保育所には消極的だった国が、スウェーデン並みにしようと公的なお金で保育を充実させています。子どもの成長・発達に公的投資をするのは、社会的にメリットがある、利益があるという考え方です。国も自治体も、そういう財政転換が必要だ」と強調しました。
保育所の最低基準 保育所などの児童福祉施設は、「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法25条)が保障されるよう、厚労相が施設や運営について最低基準を定めています。職員配置はゼロ歳児3人に保育士1人、4歳以上児では子ども30人に保育士1人など。2歳以上児の保育室の面積は子ども1人当たり1.98平方メートル(約1.2畳)など。医務室、調理室の設置も。現在の認可保育所は、ホールを設けるなど最低基準の2倍近くの面積を確保したり、保育士を加配するなど、不十分な最低基準をカバーしています。