2009年12月7日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPRESS
ブラック会社
「もう俺は限界」のリアル
「ブラック会社」―。インターネット上で労働者に過酷な労働環境を強いる会社をさす用語です。ネットの掲示板では、ブラック会社のリストが毎年更新され、学生の就職活動の“指標”ともなっています。掲示板に書き込まれた実話をもとに本や映画もつくられ、話題になっています。ブラック会社の実態とは―。(染矢ゆう子)
残業時間偽造を強いる
ケース(1) 一部上場のIT企業会社員(25)の男性
「携帯電話で日本一になりたい」と入社しました。1万人以上がエントリーする人気企業で、一人で何千万という予算を使う裁量権もあり、やりがいもあります。しかし、営業のノルマが厳しく、達成しないと土日も働かないといけません。
11月末の3連休。旅行に行くというと上司は「やる気を感じないね」。同僚には「また遊んでるんですか」と言われました。月初めの総括では「ノルマを達成できている人は土日も出勤している。達成していない人が来ていないのはいかがなものか」と役員がコメントします。残業代が出ないのに、深夜も土日も暗黙の了解で残業させられます。
新人には、達成されないと上司が丸ぼうずになる、というペナルティーもありました。
営業の部署に移って半年で5人がうつ病でやめました。僕も抗うつ剤を飲みながら仕事をしています。上司に相談できず、平日は午後11時まで働きます。
出勤簿は残業時間が月50時間以内になるよう全員が偽造しています。一度、50時間をこえてつけたことがありました。呼び出され、書き換えさせられました。
会社の業績は良いけど、どうなんだろうと思います。
1人年20億円のノルマ
ケース(2) 建築関係の上場企業元社員(一級建築士)の女性
支店で作業する一級建築士は3人だけ。支店は年60億円の売り上げ目標があるので、1人年20億円分の仕事のノルマがあります。
やりきれないほどの仕事があるのに、残業すると人事評価の点数がマイナスになります。
昼食を食べる時間もなく、毎日カップのみそ汁にごはんを入れてかきこみました。残業は違う部署でしたり、持ち帰って深夜までやりました。もちろん残業代はありません。ノルマをこなすためウソの図面を書くことも。
営業は、月初めに「何億やります」と目標を宣言します。できないと毎朝の朝礼で「給料泥棒」とつめられ、3カ月目標を達成できないと、クロージングといって、支店長の前で泣きながら退職届を書かされます。
契約金の肩代わりなどで営業マンがサラ金からお金を借り、取り立てで会社の電話回線がストップしたこともありました。
私がやめて、60人の支店で正社員の女性は3人になりました。毎月4、5人はやめていきます。長い目で見てどうなんでしょうか?
経歴詐称して派遣先へ
ケース(3) ソフト開発企業元会社員の男性
正社員で採用していますが、実態は他社への派遣です。
ブラック企業だからとウチを避けた学生も、関連会社に来ることがあります。関連会社に入っても、いつのまにか、うちの社員になっています。
採用をすすめるため、初任給が通常より5万円程高い。学生に内定を出したら9月からすぐ研修が始まります。自由参加ですがノルマがあるので毎日参加する学生も。
何もできない23歳でも、やったことのない経歴まで書き込んで「25歳」という年齢で派遣先に説明させられました。派遣先で「こんなのもできないの」と言われたり、精神的につらいことも多く、逃げ出す人もいます。
技術のない新人を売ることなどは無理なので、「大量採用をやめてくれ」と役員に直談判しましたが、直後から残業代が出なくなりました。
一方、社長は通常の企業ではあり得ない高額の給与をもらっています。
今は不況で仕事がなく、大量採用された新人が1年半ずっと研修を続けています。今どき、安易に人を集めている会社は危ないですよ。
変えられるのは私たち
プロデューサー 井手陽子さんに聞く
最近、公開された映画「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」が評判になっています。プロデューサーの井手陽子さんに聞きました。
リーマン・ショック以降、世の中が厳しくなってきて、派遣切りなどの問題も起こり、普通に働いていた人の環境も厳しくなっています。それでも人間は働かなければなりません。働くことの意義について考えたいと、この映画をつくりました。
映画をつくるためにプログラマーの職場を取材しました。1カ月徹夜が続き、派遣先で亡くなるという職場もありました。
映画では、人間関係のブラックを主に描いています。会社をブラックにするのもしないのも、そこで働く人間だと思います。私も会社勤めをしたことがあります。社会人になったばかりのころ、1週間徹夜が続いたことや理不尽な上司に深夜まで働いた後でも、毎晩ムリに飲みに連れていかれたことなどありました。
でも、ブラックだと思わなかった。やりたい仕事だったり、支えてくれる同期や理解してくれる先輩がいたからです。徹夜や理不尽な上司でもいいというわけでは決してありません。労働基準法は守らなければいけないものです。ただ今はそうした人間関係さえなくなっていると思います。
映画で伝えたいのは、“変わる”ということ。今の社会状況を変えるのもまず、今の自分が変わるということから始まると思います。この不況で理想の職につける人はいないけれど、それでも働いていかなければならないのが現状です。
でも、社会とつながることによって、社会を変えられる可能性が生まれる。今のこの時代を変えられるのは、働いている私たちしかないのですから。
社員を使い捨てにする会社はどこかで必ずしわよせがきます。生産物は、働いている人によって生み出されるものです。良いものを生み出そうと思うほど、働く人に良い環境をつくることが必要です。
小さいことかもしれませんが、一人一人が変わろうとすれば、その変化は周囲に必ず影響を及ぼし、会社、そして社会も変わっていけると思います。
仲間つくり労組に相談を
笹山弁護士に聞く
ブラック会社の実態にくわしい笹山尚人弁護士に聞きました。
「便器をなめさせてやると言われた」「殴られてあごに穴があいた」など、深刻な相談が増えています。
背景には、非正規雇用を増やし、正社員からの代替が進んだことがあります。人件費を資材費や物品費など雑費扱いする企業が出てきて、人を人として扱う感覚が薄れてきています。
日本型の終身雇用制度が崩壊するなかで、社員には会社に貢献してもらうが、その家族の生活を支えるのは自分の責任というプライドを持つ経営者が少なくなっています。
また、労働監督行政が貧弱で、労働法に違反しても摘発されないため、解雇やパワハラが横行しています。
ブラック会社に入ってしまったら、孤立しないことです。「これっておかしくない?」と話せる仲間を増やしましょう。
数人で労働組合に相談したり、労働組合をつくったりすると、もっと良いでしょう。社長に経済的にしばられているもの同士の団結が職場を変える本当の力になります。
仕事は、人の役に立つことです。誇りをもって、職場が何とかならないのか考えてほしい。
一方で、健康を害してまでがんばる必要はありません。悩みを一人で抱え込まず、労働組合に相談しましょう。
◇笹山さんのアドバイス
ブラック会社を見分けるチェックリスト
□女性が長く働いている職場か?
□社会保険に入っているか?
□残業代が払われているか?
□有給休暇が自由に取れるか?
お悩みHunter
ひきこもりの姉 できることは
Q 高校1年の女子です。3歳年上の姉は、ここ1年ほど、ひきこもり状態で、外出できません。近所に出かけただけで腹痛がするみたいです。両親は原因を知っているみたいですが、私には話してくれません。私は姉が大好きで、以前の明るい姉に戻ってほしい。私にできることはないでしょうか。(16歳女性)
一人でなく家族で向き合って
A あなたは、お姉さん思いのやさしい人ですね。
まず、もう一度ご両親に相談してみてはいかがでしょうか。
あなたが一人で行動するのではなく、ご両親と相談しながら家族みんなで連帯して、お姉さんの状態と向き合うことをおすすめします。
あなたがお姉さんを大好きなこと、原因を知って家族みんなでお姉さんの状態と向き合いたいこと、自分にできることは何か探していることなど、あなたの気持ちをじっくり率直にご両親に打ち明けてみてください。
ただし、ご両親があなたに原因を話さないのには、それなりの訳があるのかもしれません。お姉さん自身がそう願っているのかもしれません。だから、ご両親がどうしても話してくれないからと言って、ご両親を責めてはいけません。
ひきこもり状態といっても、その人その人で原因も状況も環境も違います。
専門家に相談する方が良い場合もあります。もし、お姉さんやご両親が専門家に相談されていないようなら、相談するように話してみるのも良いかもしれません。
お姉さんには、「私はお姉ちゃんが大好きだよ。私はどんなときもお姉ちゃんの味方だよ」と、そっとやさしく伝えて良いと思います。
長い人生、ひきこもる時期があったっていい。親やきょうだいの愛情をより深く感じ合える機会になれたら良いですね。
舞台女優 有馬 理恵さん
「肝っ玉お母とその子供達」など多くの作品に出演。水上勉作「釈迦内柩唄」はライフワーク。日本平和委員会理事。
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