2009年11月28日(土)「しんぶん赤旗」
論戦ハイライト
地球温暖化対策
25%削減 何が必要か
参院環境委 市田書記局長の質問
鳩山政権が掲げる2020年までの温室効果ガス25%削減目標(1990年比)を達成するには何が必要か―日本共産党の市田忠義書記局長が24日の参院環境委員会で行った質問は、それを示したものとして、注目を集めています。ハイライトで紹介します。
市田 経済のあり方変えない試算前提を見直せ
環境相 必要であれば検討する
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市田 鳩山内閣は、CO2(二酸化炭素)を90年比で25%削減する中期目標を発表しました。わが党はこれを歓迎する立場です。問題は、それをいかに実現するか。きょうは、その問題にしぼって聞きます。
冒頭、こうのべた市田氏は、最初に削減目標の根拠となる試算の見直し、つまり、排出削減が経済にどんな影響を及ぼし、削減によってどんな社会をつくるのかのビジョンの再検討について質問しました。
鳩山政権は、「地球温暖化問題に関する閣僚委員会」の副大臣級検討チームを立ち上げ、自公前政権が90年比8%減という消極的な目標の根拠とした試算の再検討作業を進めているからです。
市田 モデル分析の評価を行う観点として、マクロフレーム(試算)の設定が不適切ではないかと指摘されている。数字を答えてください。
大谷信盛・環境省政務官 粗鋼生産が1億2000万トン、原発による発電電力量が4345億キロワット時、旅客運送量が5190億キロメートルです。
市田 要するに、粗鋼の生産量は今より若干増える、原発は9基増設する、自動車の輸送量は人口が減少する可能性が高いにもかかわらず減らない、逆に貨物は増えるという前提がつけられた。
市田氏が指摘したように、前政権の試算は、経済のあり方を現状から基本的に変更しないという大前提がつけられていたのです。しかも、その大前提は業界団体が示したデータそのもので、大幅削減は最初から排除したも同然でした。
市田 この大前提を抜本的に見直すことから始める必要があると思いますが、そういう考えはおありですか。
小沢鋭仁環境相 必要であれば検討も加えていきたい。
市田氏の質問直後に開かれた副大臣級検討チーム会合は、温暖化ガス削減が経済に及ぼす影響について、専門家会合のメンバーを入れ替えて試算し直す方針を決めました。
市田 日本の産業部門は削減努力怠っている
環境相 再生エネルギーに改善余地
政府の25%削減目標に対し財界や産業界は、「日本のエネルギー効率は世界のトップクラスであり、これ以上の排出削減をすれば膨大なコストがかかる」「日本企業の国際競争力が損なわれる」などと抵抗しています。
市田 総排出量の8割、家庭が使う電力を電力会社の排出とすれば9割を占める産業部門の削減対策に思い切って切り込まなかったら、到底25%削減は到達できない。そこで聞きたいが、前政権の産業部門の対策はだれの主張にもとづいて設定されたのか。
環境政務官 業界団体による見通しを採用しての計算だった。
市田氏は、業界の主張をのんで設定された対策だったことを明らかにしたうえで、財界が抵抗の主要な論拠にしている「エネルギー効率世界一」論を取り上げました。
そこで市田氏が示したのは、「各国のGDP(国内総生産)および電力あたりのCO2排出量」を示した資料(表1)です。これによれば、購買力平価でみたGDPあたり排出量は、欧州連合(EU)27カ国が米ドルあたり0・32キロなのに対し、日本は0・34と上回っています。国別で見ても英国は0・29です。発電量あたりの排出量は450グラム。OECD(経済協力開発機構)加盟30カ国中20位で、「エネルギー効率世界一」とはかけ離れています。
市田 いかに日本の産業界が削減努力を怠ってきたかは数字が明白に示しています。産業界には大幅な削減対策ができる余地は十分あると考えていますが、どうですか。
環境相 日本のエネルギー効率は極めて高いと思っている。ただ、再生エネルギーといった話までふくめれば、いろんな改善の余地はあると思っている。
市田氏は「鉄鋼業界でもまだまだエネルギー効率をあげて世界をリードできる余地があることは明らかだ」と指摘しました。
市田 欧州では日本企業も公的削減協定に参加している
環境相 経済界にも協力いただく
「産業界言いなりのマクロフレームや温暖化対策では25%削減を確実なものにはできない。まだまだ十分な削減余地がある産業界に対する思い切った誘導策、規制策ができるかどうかが重要なポイントになっている」
こう指摘した市田氏が取り上げたのが、産業部門の削減を図るために政府と企業が締結する公的削減協定の問題です。
市田 イギリスには気候変動協定という制度があります。この協定を締結している日本企業にはどういう企業があるか。
環境政務官 自動車部門では、英国ホンダ、英国日産自動車、英国トヨタです。半導体部門は信越半導体ヨーロッパとなっております。
市田 日本の大企業もイギリスに進出したらちゃんと政府と削減協定を結んでいるわけですね。
市田氏はさらに、「地球温暖化対応のための経済的手法研究会」という経済産業省に設置された研究会について質問。日本経団連常務理事、鉄鋼連盟環境・エネルギー政策委員会委員長、電気事業連合会副会長といったそうそうたるメンバーが参加する同会が、昨年7月に発表した中間報告で、協定等の法的措置への移行の可能性も検討すべきだと提言していることを明らかにしました。
市田 日本経団連などは盛んに25%削減などやれば国際競争力は損なわれると抵抗しているけれども、ヨーロッパでは日本企業も(公的削減協定に)参加しているし、産業界の代表が参加している研究会でも公的削減協定の法的措置を提言しているわけです。お聞きしたいのは、鳩山首相が25%削減のためには、あらゆる措置を動員しなければならないと言っているなかには、当然この公的削減協定も入りますね。
環境相 具体的にどういう協定までという話は今のところはございませんが、とにかく経済界のみなさんにも協力をいただかなければやってまいれない。
市田氏は、「経団連の『自主行動計画』任せにしてきたことがこれまで削減目標が達成できず逆に増えた結果をもたらしてきた」と指摘。「公的削減協定を中核に位置づけ、それを補完するものとして国際排出量取引制度や(電力)固定価格買い取り制度の導入、環境税などを実施」するなど、「25%削減を確実にする担保措置に踏み込めるかどうかが重要なポイントだ」と強調しました。
市田 COP15で最後まで合意への努力を
25%削減目標を打ち出した鳩山首相は、この目標が「すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築や意欲的な目標の合意を前提として」(10月26日の所信表明演説)のものだとの立場を繰り返し述べています。
市田 日本経団連の「すべての主要排出国が参加する公平で実効ある国際的枠組みが不可欠」という文言とはどこが違うのか。
環境相 ほとんど変わらないと思っております。
市田氏は、「鳩山さんが言ったことと、日本経団連や麻生前首相が言った中身がほとんど変わらないんじゃないか。他の国が積極的な目標を掲げない場合、25%(という目標数値)を下げることもあるのか。そんなことはあってはならない」と指摘しました。
そこで市田氏は、EUが公表した資料(表2)を掲げ、先進国全体の中期目標の幅は9〜16・5%にとどまっていることを示しました。
市田氏は「これではとても途上国が納得できて先進国の歴史的な責任を果たす削減目標とは言えない」と述べ、「『共通だが差異ある責任』」の原則に立って、途上国に削減義務を課すことを前提とするんじゃなくて、先進国自らが科学的な要請にこたえた目標を掲げることが大事だ」と指摘しました。
市田 小沢(環境)大臣は記者会見で「米国も削減数値目標を示さなければ途上国は納得しない」と明言されています。アメリカ政府に対して科学的な要請に基づいた数値目標の表明を求めるなど、先進国・日本としての責任と役割を果たすべきときではないかと思いますが…。
環境相 オバマ大統領が「米国も含め明確な削減目標を定めなければならない」という発言をしており、かなり対応が違ってきていると実感している。
市田氏は「法的な拘束力がある国際的合意ができるかどうかは、先進国、特にアメリカが科学的な要請に基づく明確な数値目標を表明するかどうかがやっぱり最大のポイントとなっています」と指摘したうえで、次のように述べました。
市田 これまでの政権がやってきたような産業界言いなり、アメリカ協調に終始した姿勢を新政権はやっぱり根本的に転換をして、各国首脳がCOP15(気候変動枠組み条約第15回締約国会議)でも最後まで最大限の努力を払って、小沢大臣も最後まであきらめないで13年以降の枠組みが合意できるよう奮闘されることを期待します。
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