2009年11月17日(火)「しんぶん赤旗」
APEC首脳会議
内需主導へ転換急ぐ
労働者保護に言及なし
14日から15日までシンガポールで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は、新しい経済成長戦略として、内需主導型で「社会のすべての層が恩恵を受ける」成長を打ち出しました。世界の国内総生産(GDP)の約半分を占めるAPECの21カ国・地域は、危機をもたらした経済構造に“反省”を示し、その転換を急いでいます。(シンガポール=井上歩)
オバマ米大統領はアジア歴訪前、世界の経済成長は「もはや米国の消費と借金に頼れない」と表明。アジア政策演説でも、その「限界」を知ったことが危機の第一の教訓だと語りました。
新しい成長戦略
経済危機発生後、アジアは「成長の推進力を、輸出から教育や医療などへの政府支出へとシフト」(インドネシアのユドヨノ大統領)。そうした内需重視を危機対応の国別の景気刺激策だけでなく、「新しい成長パターン」(中国の胡錦濤国家主席)へと「根本的にシフト」(ガイトナー米財務長官)させる―。首脳会議はこうした「成長戦略」で一致しました。
新成長戦略の柱は「均衡がとれ、あまねく広がり、持続可能」という三つです。
競争主義に幻滅
製品をアジアに輸出したい米国と、「人々の暮らし、福祉が共同体の中心」(東南アジア諸国連合〈ASEAN〉憲章)とするアジアの意向が重なったといえます。米国、インドネシア、シンガポールの3カ国財務相は地元紙に共同論文を寄稿し、「APECは需要を維持する戦略に取りかかる」と宣言しました。
「これだけの震度の危機のあと、自由競争主義の資本主義に幻滅し、経済理論の前提を考え直すことは自然だ」(シンガポールのリー・シェンロン首相)との発言も出ました。
米世論への警戒
他方で課題も多そうです。首脳宣言は新戦略に雇用創出、中小企業支援、セーフティーネットの整備を挙げましたが、「世界の工場」アジアで低賃金労働が横行するなかで労働者の権利・条件保護には言及しませんでした。
アジアに需要増を求めているのは「失業をアジアの責任とする米国内の世論」(地元紙ストレーツ・タイムズ16日付)のためだという警戒の声もあります。すでに中国製タイヤに対する米国の緊急輸入制限など貿易摩擦が起きており、APECが原則としてきた自由貿易推進は抜本的な議論を求められています。