2009年10月28日(水)「しんぶん赤旗」
政治を前に インタビュー
財界も審判を受けた
経済同友会終身幹事 品川 正治さん
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総選挙で自公政権が退場し、民主党を中心とする政権が誕生しました。これは、国民がつくり出したものです。
「政権交代」「自公政権退け」が国民的なスローガンになりました。民主党がいいだしたからスローガンになったのではありません。
勝ったのは国民
民主党も、かつては新自由主義の「構造改革」を、自民党と競っていました。それを、いわば否定する形で、国民のスローガンに乗れるように変えていった。だから、民主党の勝利というよりも国民の勝利ですよね。
日本の資本主義というのは変わっていましてね。かつて一度も、社会民主主義政権の経験をもっていません。これは、ヨーロッパとは違います。アメリカも社民政権の経験はありませんが、しょっちゅう政権交代があります。
軍産複合体ということはアメリカではよく言われるけれど、日本の場合は、政官財というトライアングルができていました。経済はもちろん、外交に関しても、このトライアングルで動かしていく。
自民党は選挙の時には、政治は市民社会のものだといい、選挙で当選した次の日から企業社会のための仕事をしている。族議員になって、政官財のトライアングルの一員としてしか動かないということになっていたんです。
企業社会のためにしか働かない政官財の鉄のトライアングルを、国民は壊したわけです。
大企業はアメリカをマーケット(市場)にしています。アメリカで商売するためには、アメリカ流の資本主義の方がアメリカからも信用されるし、商売しやすい。ところが、アメリカ流資本主義は、国民にとってはなんのプラスにもなりません。
2002年から07年までの景気は「いざなぎ景気」を超える戦後最長の景気だといわれました。しかし、国民は、景気がいいなんて思ったこともない。労働者の賃金は逆に減っています。
こうした事実から、国民は「自公政権は退場」「政権交代」をスローガンに、政官財のトライアングルを壊したのです。
内部的には動揺
自公政権が壊れたことで一番大きな転換点を迎えたのは、財界だと思います。
財界は「保守2党」を主導していたわけですよね。ところが、奇妙なことに、自民党一辺倒で、自民党と一体となってやってきた。政権交代で、財界は内部的には、かなり動揺しているんですよ。
自分の会社の労組の委員長が大臣になることを予想していた社長なんて一人もいないですよ。
政治は国民のもの、市民社会のものであって、企業社会のものではありません。このことをはっきり思い知らされたのではないですかね。
世界的な企業の経営者だって1票しかもっていない。彼が10万票もっていたら、それこそ刑務所にはいらなければなりません。
なのに、政治は企業社会のものだと思っていることが、大きな誤りだったんですね。
私が、経済同友会の副代表幹事をやっている時に、ある大物財界人に言われたことがあります。「君たちは、そんな提言みたいなことばかりやっているが、我々の時は総理を呼びつけたものだ。いまの財界人は小物すぎるじゃないか」。私は、「日本の民主主義を悪くしたのはいったいだれなんですか。あんたたちではないか」と開き直ったんです。
貧困・格差生む経営者に資格ない
日本経団連は、「口も出すから、金も出す」という。企業献金を出すのに、政党に点数をつける。自民党にしかAはつけない。民主党はAはなし。自分たちが要求したことを、どれだけ実行しているかで点数をつける。社会のためにどれだけやっているかではない。こんなばかげたことはありませんよ。
企業献金は、なにか利益を得ようと思ってやれば贈賄です。何も利益はないけれども金を出しましたといえば、背任ですよ。
大企業のためだけ
私は保険会社をやっていましたから、顧客には自民党以外の支持者もたくさんいますよ。共産党支持者も。会社の金を自民党だけのために使うなんてことはできっこありません。
ヨーロッパでいうと、社長はカトリック、副社長はプロテスタントという場合、カトリック関係の政党にだけ会社の金を寄付するなんてことはできません。これが当たり前の感覚なんです。自分のお金なら別ですが。
経団連は、大企業だけがよければいいという組織に変わってしまいましたね。トリクルダウンと称して、とにかく大企業が外需でもうければGDP(国内総生産)も増えるし、そのおこぼれが国民にくるという言い方でした。そんなのイカサマですよ。規制緩和と称して、雇用を壊し、賃金を抑えてきました。
少なくとも結婚でき、子どもをつくれるという給料を出す。それだけの自覚を持っておれば、経営者も政策について発言できるけれどもね。結婚もできない、子どもも産めないような給料しか出さない。それを賃金だと称して労働力を買ってもうけているような経営者には、ものをいう資格はないのではないか。
経済も人間の目で
こんどの総選挙の結果は、自公政権が審判を受けただけでなく、財界が審判を受けたんだと思わなければなりません。
そのあらわれが、昨年暮れからの「派遣村」でした。東京のどまんなか、立法、行政、司法の三権のトップが集まっている。日比谷公園から、日本の国民に本当の意味での貧困とか格差とかいうものを、はっきり知らせました。「派遣村」は大企業といえども、国民からうらまれたら成り立たないということを教えました。
お上がつくった状況のなかで、どう順応していくか。国民はそんなものではないですよ、私たちも状況をつくれますよ、ということをはっきりと示すことができました。これも、自民党が総選挙で完敗した要因のひとつだと思います。「派遣村」が政治を動かし、マスコミを変えたことは、国民に大きな自信を持たせました。
民主党政権は温室効果ガスの25%削減を鳩山首相が国際公約するなど、いいスタートを切れたと思います。ただ、見極めるのはまだ難しいね。
国民も、政治にまともに向き合わないといけません。民主党にまかせておけばいいんだということになると、こわい。それはやっちゃいけないことです。あれだけの議席があれば、自民党と組めばなんでもできてしまう。
民主党のマニフェストについても、すべてやってくれと国民は承認したわけではありません。
憲法問題にはやはり不安があります。鳩山さんも改憲派であることは間違いない。国民は民主党に308議席を与えたわけだからね。民主党を十分に監視する責任があります。
憲法9条は、人間の目でみて戦争は絶対に許されないというものです。戦争は罪のない母親が死ぬ。赤ん坊が死ぬ。逃げる力のない人がみんな死んでいく。戦争はしない、できないという日本の憲法は60年間守ってきたから、人間の目でみる憲法になったと思っています。
そういう憲法を持っている国だから、経済も人間の目でみなさい。私の結論は、それに尽きるんです。これ以上弱い人にしわ寄せしない形で不況をどう乗り切るか。弱い人には一番苦しい消費税の増税などはやらない。そうならないと私はおかしいと思います。
建設的野党の役割
共産党は「建設的野党」といっておられます。民主党政権を見極めながら、国民の立場からぜひ対応していただきたいと思います。
自民党や公明党をあそこまで追い込んだのは、民主党の力ではなく、国民の力です。九条の会、革新懇や貧困と格差をなくすたたかいなどの力は大きいと思います。その点で、共産党の果たした役割は大きいと思います。
共産党は自信をもったらいい。政策が悪いわけでもない。政官財のトライアングルのなかで、常に日本共産党をなんとか締め出そうという力が働いてきました。自民・公明の議席を減らした分が、共産党にはいかずに民主党にいったのも、「反共」でしょう。ここを、どう乗り越えていくかでしょうね。自民党の支持基盤は崩れています。とくに若い力をどう結集していくかでしょうね。
アメリカも日本もチェンジのスタートを切りました。しかし、日本のチェンジの中身をどうしていくか。そこに「建設的野党」としての共産党の存在意義があると思います。
聞き手 渡辺 健
写 真 佐藤光信