2009年10月26日(月)「しんぶん赤旗」
保育所最低基準撤廃の動き急
子どもの安全脅かす
「保育所をつくりやすくする」という口実で、認可保育所の職員配置や施設面積などを定めた最低基準(認可基準)が撤廃されようとしています。子どもの安全と命にかかわる重大事態です。
今月中に結論も
政府の地方分権改革推進委員会は、第3次勧告(7日)で、保育所や特別養護老人ホームなどの設置・運営の最低基準を含む約900項目について、国の基準を廃止、または地方自治体の条例に任せるよう求めました。鳩山由紀夫首相は「スピードをもって実行に移したい」と答えました。
内閣府は、このうち保育所最低基準などについて、来月4日までに実行の可否を回答するよう各省庁に要請。長妻昭厚労相と原口一博総務相が基準設定の権限を「自治体に移譲する方向で調整に入った」「10月中の合意を目指す」(「日経」23日付)と報道されるなど、事態は緊迫しています。
保育所最低基準は、「児童の身体的、精神的および社会的な発達のために必要な」(児童福祉法)最低線を定めたもの。敗戦直後の1948年、日本が貧しい時期に定められた劣悪なもので、保育関係者は長年、改善を求めてきました。
最低基準の実態はどんなものか。社会保障審議会少子化対策特別部会(厚労相の諮問機関)保育第2専門委員会の前田正子委員は、こう述べました。
「横浜は認可基準ぎりぎりの認可保育所をつくっていまして、私も見に行きましたが、基準ぎりぎりの保育園というのは驚くべき状況です。(スペースが狭く)食事をしながら子どもたちは立ち上がることもできません。いすといすの背がくっついて。玄関の靴脱ぎ場まで使わないと昼寝の布団が敷けません」(5日の委員会)。前田氏は2003年から07年まで横浜市副市長でした。
水準低下は必至
「待機児が多いのに、国基準に縛られて地方の実情に合わせた保育所整備がすすまない」というのが最低基準撤廃を求める側の言い分です。国や自治体は、財政が厳しいとして、公立の認可保育所の増設ではなく、基準を引き下げて営利企業などの参入を図る姿勢であるため、より低い基準に流れるのは必至です。
現在も、東京都などでは独自の「認証」基準を設け、認可保育所増設より認証保育所整備をすすめる傾向にあります。認証保育所は最低基準を下回る認可外施設です。
国の認可基準が撤廃されれば、現行では無認可の施設が「認可保育所」に“昇格”します。さらに、今後つくられる「認可保育所」の多くが、現行基準でいう無認可になる恐れがあります。
いまでも事故多いのに
「実際は認可外施設でも、『都の認証』と聞けば、親は安心感を持ちます。でも、保育の質からみて、公立認可園が10とすれば、私の見た認証園は2か3ぐらい。自分の子どもを預けたいとは思わない」。地方の認可保育所と営利企業の経営する東京都の認証保育所の両方で働いた経験のある保育士(43)はいいます。
職員が足りず
懸命に良心的な保育をしている認証保育所などの認可外施設がある一方、もうけ本位の事業者の参入で、都内の認証保育所では「階段が急で、転落事故が発生」「食器が100円均一の塩ビ製で熱湯消毒できない」(荒川区・じゃんぐる保育園)、「職員が足りず異年齢児を合同保育しているときに、0歳児が、大きいクラスのおもちゃを誤飲」(世田谷区・小田急ムック成城園)、「経営難から突然、閉鎖」(首都圏で展開していたハッピースマイル)などの事態が起きています。
千葉県市川市の「じゃんぐる保育園」は最低基準をクリアした認可保育所ですが、マンション1階の貸事務所のワンフロアを、間仕切りで1、2歳児と年齢の高い子の「保育室」として区切っただけ。「奥の方には光が入らない。床はコンクリートの上にカーペットを敷いただけのようで、子どもが育つ環境としてふさわしいとは思えませんでした」。同園を見学したことのある全国福祉保育労の小山道雄副委員長はいいます。
そんな保育所でも、「待機児解消」として認可される現状で、最低基準が撤廃されたら、子どもの安全を守る歯止めはとめどなく後退しかねません。
野放しの懸念
2001年に起きた無認可保育施設「ちびっこ園池袋西」の乳児窒息死亡事件の被害者代理人・寺町東子弁護士は、最低基準の撤廃を強く批判します。
この事件は、利益優先で子どもを預かり、一つのベビーベッドに2人の赤ちゃんを寝かせていたために起きました。大きな社会問題となり、同年、児童福祉法が改正され、最低基準に準ずる「認可外保育施設指導監督基準」が設けられました。
寺町さんは、「認可保育所の最低基準が取り払われれば、認可外の監督基準も有名無実化し、野放しになりかねない。現行でも多くの事故が起きている。何人もの子どもの死のうえで、やっとできた規制が後退することは許されない」といいます。
保育所最低基準 正式には「児童福祉施設最低基準」で児童福祉施設の守るべき最低の基準を、厚労相が定めます。「水準の向上を図ることに努める」とされ、これを上回ることは今でも自由です。職員配置は、4歳児以上では子ども30人に保育士1人。面積はゼロ、1歳児では1人1畳(1・65平方メートル)、幼児では1・2畳(1・98平方メートル)。園庭は近所の公園が利用可能ならなくてもよく、2歳未満児のみの保育所では必要とされていません。
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