2009年10月21日(水)「しんぶん赤旗」
イラク北部 深刻な水不足
10万人以上が避難民
イラク北部の諸州で深刻な水不足から10万人以上が避難民化していることが、このほど公表された国連教育科学文化機関(ユネスコ)の研究で明らかになりました。(夏目雅至)
干ばつや井戸の過剰取水がこの地域の地下水位を低下させ、カレーズと呼ばれている古くからの地下導水施設の水流が激減したことによるものです。
70%が枯渇
研究は現在の干ばつがカレーズのシステムに与えている影響を初めて文書化したもの。カレーズの急速な枯渇は5年前の大干ばつから始まりました。
ユネスコの調査によると、イラクのカレーズは北部のスレイマニア、アルビル、ダフークの3州に集中。一部は、アラブ系住民とクルド系住民の紛争地の村にあります。
総数683のカレーズが確認されていますが、2004年の調査で機能していたのは半数の380カ所。これが、今回8月の調査では116カ所に減少しました。この間に70%のカレーズが枯渇したことになります。干ばつだけでなく、近代的なポンプで地下水を過剰にくみ揚げることも原因とされます。
カレーズへの脅威としては、ほかにも政治的不安定さがあげられます。報告は、イラク政治の混乱や戦争などで、現在同国にはカレーズの維持・修復のための知識を持った人がほとんどいなくなったと指摘しています。
集落を放棄
急速なカレーズの枯渇で、最も大きな打撃を受けたスレイマニア州ジャファロン村では、52のカレーズのうち44が枯渇。唯一の食料源だった113ヘクタールの耕地が不毛の地となり、住民の多くが移住しました。新たな水源を求め、集落全体が放棄された村もあります。深刻な影響を受けた地域では、05年以来、人口が約70%も減少しているといいます。
ユネスコ報告は、状況が急速に改善されないと、さらに3万6000人の避難民の発生が予測されると警告。ユネスコはカレーズ枯渇や住民の移動を、この地域の将来の水供給問題での警報だと受けとめています。これ以上の住民の移動を防ぐためには緊急の行動が必要だとして、国際社会の協力を訴えています。
カレーズ 古代ペルシャで開発された乾燥地域に適応した地下導水施設で、世界各地に広がりました。地域によってはカナートとも呼ばれています。山ろくなどの扇状地の地下水を水源とし、蒸散を防ぐために村落や農作地まで地下に水路を設けています。一つのカレーズは9000人分の家庭用水を供給、農耕地200ヘクタールをかんがいする能力があるといいます。
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