2009年10月19日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
プルサーマル計画
住民や自治体の反対と原発事故、トラブルで計画より10年遅れていたプルサーマル導入が、年内にも強行されようとしています。青森県の再処理工場とあわせてリポートします。
MOX燃料装てんを強行
住民団体抗議
佐賀・玄海原発
九州電力は15日、プルサーマル発電に使用するウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX)燃料を佐賀県玄海町の玄海原子力発電所(4基)3号機の原子炉に装てん作業を開始しました。
県内外の住民・市民団体、日本共産党などが県や玄海町、九電に対し安全性や公開性などに問題があると指摘し、「住民への情報公開を」「佐賀県を核のごみ捨て場にするな」と抗議し、燃料装てん作業やプルサーマル中止を求めました。
原発は風光明美な同町の日本海玄界灘に位置します。核燃料サイクル政策が破たんしているうえ、玄海原発の1号機は34年を経過し、老朽化した原発の廃炉が大きな課題になっています。
その建設誘致の当時から36年間、危険な原発に反対してきた「玄海原発対策住民会議」の藤浦皓会長(日本共産党玄海町議)は、「原発に燃料として想定されていないプルトニウムを使うことは、まだまだ研究段階の実験を行うべきもの」とのべ、国や九電が言う「安全神話」を厳しく批判しています。
玄海町は「原発城下町」とも「家族や親せきの誰かは九電関連の仕事にかかわっている『沈黙の町』」とやゆされます。しかし、藤浦会長は9月の町議選(定数12)で前回票を102票伸ばす369票(1・4倍)の4位で当選し、4年間の議席空白を克服しました。
ある町民は「不安はいつも感じながら暮らしている。原発関係の仕事で、原発に反対はできない。しかし、老朽化した1号機の運転を続けるのはいけない。プルサーマルや中間貯蔵施設には反対です。永久的になる」と言います。
9月佐賀県議会に「プルサーマルの実施延期を求める請願署名」を提出してきた「プルサーマルと佐賀県の100年を考える会」の野中広樹代表世話人は燃料装てんの抗議集会で「九電は装てんへの自主検査や国や原子力安全・保安院の検査はパスしていると言うが、中身は何も公開しておらず、信用できない。県議会もいったん延期せざるを得なかった。強行には憤りを持ちます。なぜ、急ぐのか理由がわからない。安全と情報公開を求めたい」と訴えました。(佐賀県・平川明宏)
地震規模過小評価
愛媛・伊方原発
四国電力の伊方原発(愛媛県伊方町)では5月27日、フランスからMOX燃料21体を搬入しています。原子力安全・保安院は7月、燃料検査合格証を交付。来年1月上旬に伊方3号機にMOX燃料を装荷(装てん)し、2月から発電を開始するとしています。
ところが四国電力伊方原発の耐震性見直し案発表から1年半たちますが、いまだに地震規模が確定しません。「プルサーマルどころではない。地震対策が先だ」の声が広がっています。
四電は昨年3月、最大地震加速度を従来の473ガルから570ガルに引き上げると国に報告。これに対し今年2月に愛媛県が、また8月に国が、原発の目の前を走る活断層の評価を厳しくするよう注文をつけました。四電は570ガルに固執し、現在国で審査が続いています。
この活断層は、「中央構造線」と呼ばれる日本最大のもので、専門家からは、1000ガルも覚悟しなければ」と指摘されています。
柏崎刈羽原発が450ガルから2300ガルに引き上げたほか、国の指摘で地震規模を再々引き上げした原発も多く、四国電力のかたくなな態度は異例です。
また、「プルサーマルに使うMOX燃料は1体8・9億円で、従来燃料1体1億〜2億に比べて数倍高いのに、電力量は従来燃料の8割に留まる」と地元紙が報じたうえ、関西電力でMOX燃料の不良品問題が発覚するなど、経済性や燃料の安全性にも新たな疑問が生じています。
愛媛労連、愛媛労組会議、伊方原発等の危険に反対する愛媛県民連絡会議などの団体や、共産、社民、新社会、環境市民などの政党・会派でつくっている「伊方原発プルサーマル計画中止を求める県民共同の会」は19日に県に対して、MOX燃料の不良品問題などで申し入れる予定です。(日本共産党愛媛県議・佐々木泉)
完工時期17回延期
青森・再処理工場
核燃料サイクルの要となる青森県六ケ所村の再処理工場について、日本原燃は8月31日に試運転終了(完工=工場完成)時期を14カ月延期し、2010年10月にすると発表しました。
再処理工場では、建設段階からトラブルが相次ぎ、完工時期は延期に延期を重ね、今回が17回目の延期。再処理技術の未確立を露呈する異常な事態です。
化学試験、ウラン試験を経て、06年3月から使用済み核燃料を使った試運転(アクティブ試験)が始まりました。
07年11月から、再処理で出た高レベル放射性廃液にガラスを混ぜて固める「ガラス固化体」製造試験を開始しました。
溶融炉の底に金属がたまるトラブルが発生して同年12月に中断。その後も、配管から高レベル廃液が漏れるなどさまざまなトラブルが続発し、中断―試験再開を繰り返してきました。解決の見通しはたっていません。
再処理工場は約2兆2000億円かけて建設。原発の使用済み核燃料からプルトニウムとウランを取り出す施設です。
核兵器の材料でもあるプルトニウムはすでに膨大な量が蓄積しており、この再処理工場なしには核燃料サイクルが切断されます。
しかも高レベル放射性廃棄物の処分場も決まっておらず、処分方法も確立していません。核燃料サイクル基地のトラブル続発は日本の原子力行政の根幹を揺るがしています。(青森県・猪股文夫)
プルサーマルとは
プルサーマルは、原発の使用済み核燃料から取り出したプルトニウムとウランを混合したMOX(モックス)燃料を既存の原発で燃やす発電方式。
2010年度までに16〜18基の原発で実施する計画を、ことし6月に5年先延ばしすると発表しています。先駆けとなる玄海原発に続いて伊方、浜岡、高浜の各原発が時期を明示して導入を準備しています。
プルトニウム利用技術の未確立、プルトニウムの異常蓄積と大量流通、高レベル放射性廃棄物の処理、地震対策など、どれひとつとっても安全の保障がありません。
プルサーマル計画は、日本の原子力政策である核燃料サイクルの一環です。国と電力会社が国策として進めてきたもので、新政権の対応が問われます。
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