2009年10月19日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPRESS
新鮮 資本論
「搾取」ってムチ打ち働かせるイメージだった
労働者の主張の大事さわかった
東大で自主ゼミ
「2009年に『資本論』を読む」。このタイトルの自主ゼミが東京大学で開かれています。日本共産党の不破哲三社会科学研究所所長の『「資本論」全三部を読む』(新日本出版社)を使って月2回、1年で読み切ることをめざして、1、2年生が学びます。(染矢ゆう子)
ゼミが始まったのは2008年度から。東大の1、2年生でつくる日本民主青年同盟(民青同盟)駒場班が新入生からとったアンケートで関心のある民青同盟の活動を聞いたところ、「『資本論』を読みたい」という学生が多かったことから始まりました。昨年は10人、今年は13人からスタートしました。
貧困と格差が深刻化のなか
講師を務める日本共産党東京都委員会の石井耕太さん(57)は「世界的な経済危機が起こったり、日本で貧困と格差が深刻化するなかで、資本主義そのものについて深くつかみたいという思いが強まっているのではないでしょうか」と話します。
「『資本論』が理解できたら、かっこいい」と参加した由理さん(1年)は、理系の学生です。
「商品からはじまり、価値、貨幣、資本、と分析をすすめる方法は原子、分子と分析をすすめる化学みたい。そうやって社会を見て、目の前の現象を説明できるのがすごい」。ゼミには欠かさず出席しています。
サヤカさん(2年)は、参加するまで、搾取といえば、ムチを打って労働者を働かせるようなイメージを持っていました。
「普通の『雇い』『雇われ』の中に搾取がひそみ、普通に賃金をもらっていても、(賃金分の)必要労働時間以上に働かされているという(剰余価値の)しくみにびっくりしました」と話します。
実家は中小企業を経営し、しばしば労働組合との交渉が決裂しているといいます。
「要求実現をかかげてストライキや春闘をする労働者に対して、『経営する方も大変なのに』と思っていました。でも、労働者が権利を主張し、対立することがなくなると搾取されるだけになると分かりました。労働組合も大事だと思いました」と話し、「資本主義の矛盾をどう変えていくのか興味があります。2、3ページで挫折した『資本論』の本文も読んでみたい」と意欲をもやします。
頭から拒否していたけど
「『資本論』、マルクスというと、共産主義万歳というイメージがあって、頭から拒否していた」と話す弘樹さん(1年)。「一度読んでみようよ」と話す民青同盟員に誘われて、参加するようになりました。
「『資本論』に書いてあるのは、資本主義のしくみがどうなっていて、どういう矛盾があるのかということが中心なんだと分かりました。マルクスは生産手段を共有することが必要と言っているだけ。それでいいじゃないかと思いました」と言います。
講師の石井さんは「マルクスの理論についての新鮮な発見と、それが現代に生きていることを、ともに実感しながらすすめています」と話しています。(学生は仮名)
マルクス『資本論』の魅力について2人に話を聞きました。
「これでいいのか」 考える姿勢ができる
神戸女学院大学教授の石川康宏さんの話 『資本論』は、資本主義社会の全体像をつかまえるという野心にもとづいた著作です。リストラ、貧困、恐慌等がなぜ起こるのかを根本から統一して考えています。
大学で学ぶ近代経済学は、全体としては資本主義が人びとの利害をどう調和させるかをのべるものです。しかし、実際には調和の破綻(はたん)が周期的な恐慌を生み出しています。
『資本論』は、資本主義社会がこれまでの社会とどこが違うのかを、人類史的視野でつかむことができます。社会に流される生き方でなく、これでいいのかと考える姿勢ができます。すべてを一度にわかろうとしないで、最後までページをめくってみましょう。
労働者なんだと実感させられる
労働学校で『資本論』を学ぶ、保険代理店に勤めるM子さん(30)の話 『資本論』に書かれた19世紀の資本主義のもとでの資本家と労働者の対立関係は今も変わりません。『資本論』を学び、今の自分が労働者なんだと実感しました。豊かで文化的な生活を送ろう、貧困からぬけだそうと思ったらたたかわなあかん、と思いました。
不破さんが語る
30日・11月6日にセミナー
マルクスは生きている〜公開連続セミナー
◇講師=不破哲三日本共産党社会科学研究所所長
◇第1回「大学時代にマルクスが必読な理由」
10月30日(金)
◇第2回「マルクスの眼で見た21世紀の日本と世界」
11月6日(金)
◇時間=いずれも午後6時20分から
◇場所=東京大学駒場キャンパス内(京王井の頭線「駒場東大前駅」東口下車すぐ)
お悩みHunter
店長でも労組に入れる?
Q 私の彼(30歳)は、近所のコンビニの店長です。お店のスタッフは、ほとんどバイトかパートで勤務時間の調整がとてもたいへんみたい。欠勤の穴埋めをすることもたびたびで、月100時間くらい残業しています。それなのに、残業代がきちんともらえません。店長の権限は、スタッフの採用くらいです。店長でも労働組合に入れますか?(28歳、女性)
たたかっている人いますよ
A 組合員の範囲をどのように定めるかは、労働組合が自主的に決めるべきものであって、「店長」であっても組合結成・加入は可能です。
実際、コンビニの加盟店主らで組織する労働組合が結成されたり、コンビニ店長が組合に加盟したりする事例がたくさん報道されています。
コンビニ店や飲食店の店長などが、残業代が支払われないで過酷な長時間労働に従事している実態が広く明らかになり、いわゆる「名ばかり管理職(店長)」として社会問題になっています。
私が顧問弁護士をしている首都圏青年ユニオンには、コンビニの「SHOP99」の元店長だった清水文美さんが加入し、裁判をたたかっています。
清水さんは、月100時間以上の残業をしても「店長だから」という理由で残業代が支払われていませんでした。清水さんは、異常な長時間労働のためにうつ病になり、働けなくなってしまいました。自分だけでなく他の社員らにこんなひどい働かせ方をしている会社の責任を問いたいと提訴したのです。
店長と呼ばれていても、残業代が支払われない「管理監督者」と言えるためには、(1)事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること、(2)労働時間の始期・終期や休日をとるかどうかを自己決定できること、(3)地位にふさわしい賃金などの待遇をうけていることのいずれの条件も満たすことが必要だとされています。
あなたの彼も「名ばかり店長」である可能性が高いので、ぜひ地域の労働組合などに相談してください。
弁護士 岸 松江さん
東京弁護士会所属、東京法律事務所勤務。日本弁護士連合会両性の平等に関する委員会委員。好きな言葉は「真実の力」。
■関連キーワード