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2009年10月12日(月)「しんぶん赤旗」

米原潜 通航勝手

5海峡 領海3カイリのウラ

核密約の圧力

米解禁文書から判明 新原氏入手


 日本政府は1977年に成立した領海法で領海の幅を12カイリ(約22キロ)に定めたにもかかわらず、宗谷、津軽、対馬東水道・西水道および大隅の5海峡(地図)では3カイリ(約5・6キロ)に制限しました。その背景に、核兵器を搭載した米原子力潜水艦の「自由通航」「妨げられない通航」を求めた米側の圧力があったことが、国際問題研究者の新原昭治氏が入手した米解禁文書群で明らかになりました。


 新原氏が入手したのは米太平洋統合軍司令部の年報や在日米大使館の電文などです。

 領海幅を12カイリにすれば、これら海峡の全体が領海となり、自由通航ができなくなります。このため、同司令部の年報である「コマンド・ヒストリー」72年版は、津軽、宗谷などの海峡について「米国の国益にとって緊要」であると名指しし、これらの海峡で潜水艦の自由通航が制限された場合、「SIOP(単一統合作戦計画)」と呼ばれる対ソ連・中国の核戦争計画に「直接の影響が及ぶ」と指摘しています。

 こうした事情から、米国は日本政府に対して海峡の自由通航を執ように要求。74年6月29日付電文(米国務省から同司令部あて)では、「繰り返し確認された大統領の特別指示」に基づき「妨げられない(海峡の)通航を保護しない海洋法は受け入れられない」などと強硬な姿勢を示した「エードメモワール」(覚書)を送付したことも記しています。

 当初、防衛庁(現防衛省)内に自由通航への反対論がありましたが、結局、政府は屈しました。

 当時から「(5海峡の領海幅を12カイリにすれば米軍艦船の通過は)核をつくらず、持たず、持ち込ませずの非核三原則と抵触する可能性がある。それを野党に突かれたら困るから3カイリにしたのではないか」(日本共産党の故・正森成二衆院議員、77年4月21日、衆院農水委)との疑惑が指摘されていました。それが今回、米側の文書で初めて裏付けられました。

 政府が米側の圧力に屈したのは、60年の現行日米安保条約締結時に交わした、日本への核兵器持ち込みを容認する密約に拘束されていたからです。

 75年12月30日付電文(在日米大使館から米国務省あて)では、宮沢喜一外相がホジソン米大使に対して、「12カイリ領海を若干の特定海峡における自由通航権とともに制定する方法を政府として探究中だ」とした上で、「難しいのは、そうした法制化が非核三原則を侵犯するとの野党の激しい抗議をどう切り抜けるかという問題だ」と述べたことを紹介。核密約と非核三原則との矛盾をごまかすために苦慮している様子を伝えています。その結果が、5海峡のみ領海を3カイリに制限するという世界でも異例の措置でした。

図


 領海法と国連海洋法条約 領海法が成立した当時は、現在の国連海洋法条約(1994年に発効)を実質的に定めた第3次国連海洋法会議(73〜82年)のさなかでした。同会議で多くの国が領海12カイリを求めましたが、米国などは強硬に国際海峡の「自由通航」の確保を求めました。12カイリになれば、多くの国際海峡が領海となり、潜水艦が通過する際には、旗を掲げて浮上航行を行うなど、沿岸国の規制を受ける「無害通航」が求められるのが通常だからです。

 日本は漁場確保を求める漁民の声などから、海洋法条約発効に先立つ77年、領海法で12カイリを定めました。同時に、核搭載米艦船の自由通航を保証するため、同法付則に「当分の間」、5海峡については3カイリにとどめるとの規定を盛り込みました。


核搭載原潜の作戦保証

 米政府が日本の5海峡の自由通航を執ように要求したのは、核兵器を搭載した米原子力潜水艦が核戦争計画を遂行するのに必要不可欠な条件だったからです。

 1974年5月、NATO(北大西洋条約機構)加盟国が行った海洋法会議に関する協議内容を伝えた電報は、米国の代表が、「核抑止力」の分野で「通知なしの(秘密の)、届け出なしの、制約のない潜水艦の行動が国防にとって必要不可欠」であり、「潜航通航の自由」が「将来にわたり…保持されなければならない」と報告したことを明らかにしています。

「無害通航」で

 当時から、船舶が他国の領海を通航するには慣習国際法上、「無害通航」を行わなければならないことになっていました(公海は自由通航)。無害通航とは沿岸国に害を及ぼさないよう航行することであり、潜水艦の場合には、海面に浮上し、旗を掲げることが条件になっています。

 そうなれば、潜水艦の作戦行動にとって必要不可欠な隠密性は保持されなくなってしまいます。そのため米国にとっては「(領海)12カイリは海峡が自由通航にとってオープンとされつづける時にだけ受け入れられる」(同電報)ものでした。

 日本との関係でも、「米太平洋統合軍司令官コマンド・ヒストリー(72年版)」は「米軍のプレゼンスは、(津軽、宗谷海峡など)24カイリ以内の幅の海峡における自由通航がないなら日本海…に効果的に投入しえない」と指摘。「SIOP(単一統合作戦計画)戦略支援のため行動中の潜水艦」にとって「(海峡の)自由通航権の保持が死活的利益」だと明記してあります。

 「SIOP」とは、ソ連、中国とその同盟国に対し大規模な核攻撃を加える極秘の核戦争計画です。60年に策定されて以来、米核戦略の中軸に位置付けられてきました。

米原潜が活動

 同計画に基づいて60年代半ば以降、戦略核ミサイル・ポラリスを搭載した米戦略原潜が、日本海や東シナ海でひそかに活動していたとみられています。(ハンス・クリステンセン氏らの著書『中国の核戦力と米国の核戦争計画』2006年11月)

 日本の5海峡の「自由通航」を求めた米政府の秘密の「エードメモワール」(覚書)に関する電報(74年6月)は、「ソ連による津軽海峡の利用を禁止することから生じる軍事的利点」は「米国の戦略的機動力が(同海峡の利用禁止によって)被りかねない不都合に比べればごくわずかにすぎない」と指摘。このことを日本政府に強調するよう在日米大使館に指示しています。

 核搭載米艦船・航空機の「立ち入り」を認めた日米核密約の下、今も日本には、核巡航ミサイル・トマホークを搭載可能な攻撃型原潜が頻繁に寄港し、日本海を含め日本近海で演習や作戦行動を活発に展開しています。2002年には、太平洋地域に配備されている攻撃型原潜のうち10隻が核攻撃能力の「認証」を受け、日本に寄港していた事実も明らかになっています。

 5海峡の領海幅を3カイリのままにしていることは、核密約とあわせ、核搭載原潜の作戦行動の自由を今も保証していることになり、決して過去の問題ではありません。(榎本好孝)



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