2009年9月14日(月)「しんぶん赤旗」
リスボン条約
アイルランド 国民投票へ
小国の声の埋没など不安も
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ニース条約に代わる欧州連合(EU)の基本条約となるリスボン条約を、加盟27カ国中唯一拒否しているアイルランドで、来月2日、批准をめぐる2回目の国民投票が実施されます。人口430万人と加盟国全体の人口比で1%に満たない小国アイルランドの動向に、注目が集まります。
4日に地元紙アイリッシュ・タイムズが発表した最新の世論調査では、賛成が5月の調査から8ポイント減の46%、反対が同9ポイント増の29%、25%が態度を保留しています。
昨年6月の国民投票では、53・4%の反対で否決されました。「労働者の権利が破壊される」「人工中絶が合法化される」など「左右」双方からの批判に加え、欧州委員数が削減され、小国の声が欧州の中で埋没するのではないか、軍事的中立性が保たれなくなるのではないか、などの不安が国民の中にあったからです。
さらに、昨年世界を襲った食料・燃料価格の高騰に、EUや政府が有効な対策をとれなかったことへの批判が、投票の動向に影響した側面もありました。
カウエン首相は昨年の否決以降、国民の懸念払拭(ふっしょく)のため、EUと交渉。6月のEU首脳会議で、軍事、税制などの領域でのアイルランドの独自性を保障し、すべての加盟国が欧州委員を維持できるとする約束を取り付けました。
カウエン氏は、否決されれば外国資本による同国への新たな投資が見込めず、「雇用が犠牲になる」と指摘。経済回復のためには、条約を批准しビジネス界を安心させ、投資を呼び込まなければならないと主張しています。
一方反対派は、欧州司法裁判所が、欧州内で活動する多国籍企業が、賃金の安い国の労働者を賃金の高い別の国で働かせる場合、低い国の水準の給与を払うことは合法だと判断したことなどを指摘。議会に議席を持つ政党で唯一反対しているシンフェイン党のアダムス党首は「今回判断される条約は、前回国民が拒否したものと同じ文面だ。労働者の権利や公共サービスは危険にさらされるだろう」と警戒しています。
EU議長国スウェーデンのラインフェルト首相はアイリッシュ・タイムズのインタビューに対し、仮に否決されればその意思を尊重し、「ニース条約(EUの現条約)でいくしかない」と明言しました。その上で、この間アイルランド国民の不安に応えてきたので、「承認されることを期待する」と述べました。(山田芳進)
リスボン条約 27カ国に拡大し、今後も拡大を目指すEUの政策決定過程を合議制から多数決をとりいれるなど合理化し、対外的には常設の「大統領」や「外相」職を設置する目的で07年にポルトガルの首都リスボンで調印されました。発効には27カ国の批准が必要です。前身の欧州憲法条約がフランス、オランダの国民投票で否決されたことから、アイルランド以外の加盟国は議会での承認を選択しています。