2009年9月10日(木)「しんぶん赤旗」
ナチス抵抗軍人の有罪取り消し
包括的名誉回復法が成立
ドイツ下院 被害者協会の運動実る
ドイツ連邦議会(下院)は7日、月末の総選挙を前に最後の本会議を開き、第2次大戦下の軍事裁判で軍人らに「国家反逆者」として言い渡された有罪判決を一律に取り消す「包括的名誉回復法案」を全会派の賛成で採択、成立させました。ナチスに抵抗し、有罪判決を受けた旧軍人が戦後64年にわたって「犯罪者」と扱われていたことは同国の「最後のタブー」とされていました。(夏目雅至)
ナチス政権は、1943年に軍事刑法を改定し、軍人の脱走、ユダヤ人の逃亡支援、戦争批判発言などにも死刑適用を拡大しました。第2次大戦中に軍事裁判で死刑判決を受けた人々は約3万人におよび、うち約2万人が処刑されました。戦後も迫害を受けてきた旧軍人やその遺族は90年に「全国ナチス軍事裁判被害者協会」を結成、名誉回復を求めてきました。
ツィプリース法相は「長い間忘れ去られていたナチス裁判の犠牲者の尊厳が回復された。兵士のナチスに対する抵抗を高く評価することになる」と語りました。被害者協会会長で元脱走兵のルードウィッヒ・バウマン氏(87)はドイツのメディアに「第2次大戦開始後70年にしてやっと夢がかなった」と話しました。
98年制定の名誉回復法はナチス軍事裁判での不当判決を無効とするものでしたが、個別の裁判手続きを必要としました。2002年の法改正でも適用範囲は脱走兵と兵役拒否者に限定され、「国家反逆者」は除外されました。
左翼党は、ナチス軍事裁判被害者全員を名誉回復するよう同法修正案を06年に提出。しかし、メルケル連立与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、社会民主党の抵抗で審議は進みませんでした。
与党側の反対理由は、「反逆行為」でドイツ軍兵士が危険にさらされたとするもの。軍事史研究者の判例調査でこの論拠は崩れました。軍人によるヒトラー暗殺計画を描いたトム・クルーズ主演の映画「ワルキューレ」も世論を喚起。左翼党提出法案支持は議会内全会派に広がり、6月中旬には164議員の共同提出法案となりました。CDU・CSUも同月末、名誉回復法案の今期内議会での成立を受け入れました。
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