2009年9月7日(月)「しんぶん赤旗」
主張
アイヌ政策
先住民族の認識を前提にして
アイヌ政策の抜本的な是正に向けた具体的なとりくみが求められています。
政府の「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」(座長・佐藤幸治京都大学名誉教授)は、アイヌを先住民族と認め総合的政策を求める報告書を7月にだし、政府もこれに応えて内閣官房に「アイヌ総合政策室」を設置しました。秋にはアイヌ問題の審議機関が開設される動きにもなっています。
アイヌの人々が先住民族であるという認識にもとづいて、文化振興にとどまらず教育や生活支援まで含めた総合的な政策へと発展させることがいよいよ重要です。
「国連宣言」ふまえて
報告書は、近代の土地収奪や強制的な同化政策によって国がアイヌ民族に打撃を与えてきた歴史的事実を認めたうえで、こんごは「アイヌの人々が先住民族であるという認識に基づいて展開していくことが必要」だとのべています。アイヌ政策を是正していくうえできわめて重要な提言です。
2007年に国連が「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を採択したことを受け、衆参両院本会議は昨年、全会一致でアイヌを先住民族と認める決議を採択しました。この国会決議にもとづいて政府が設置したのがアイヌ有識者懇談会です。「国連宣言」と国会決議をふまえた今回の報告書に沿うことは政府の責務です。
これまで政府は、アイヌ文化振興法などにもとづきアイヌ政策を進めてきました。しかしそもそも、「アイヌの人々の先住性から導かれたものではなかった」(報告書)ために、生活や教育の格差・差別が温存されてきました。
北海道大学アイヌ・先住民研究センターが「北海道アイヌ協会」の会員3438人を対象に行った08年度の「アイヌ民族実態調査」でも深刻な実態が明らかとなっています。アイヌの人たちの世帯の年収(税込み)は0円〜300万円が44・3%を占めています。世帯年収の平均は約370万円にすぎず、全国平均約640万円や北海道平均約570万円に比べても大きく下回っています。教育も深刻で、大学に通ったことのある人はわずか4・4%です。
アイヌの人々の就業支援、教育の充実、アイヌ古老の生活の保障などの支援強化が欠かせません。土地・資源の利活用についても、報告書がいうように「一定の政策的配慮」が必要です。総合的な政策の発展にはアイヌを先住民族だと認識することがかなめです。
国連が「宣言」を採択してから世界は大きく変化しました。オーストラリアやカナダは先住民族を差別扱いしてきたことを謝罪し、先住民保護に大きく転換しています。日本政府もこれまでのアイヌ政策を反省し、先住民族の認識に立脚して総合的政策を進めるべきときです。
アイヌ新法策定を急げ
報告書が提言した内容と方向性を全面的に実現するためには、行政的対処だけでは十分ではありません。約束しても実行が伴わなかった政府の態度への不信も根強く残っています。法的な裏づけが必要です。報告書も「国の姿勢と覚悟を法律のかたちで具体的に示すこと」を求めています。
アイヌ政策の抜本的是正に対する政府の責任を明示するため、アイヌ新法の制定を急ぐべきです。