2009年8月8日(土)「しんぶん赤旗」
核廃絶・暮らし・福祉・財源…
総選挙と日本の進路
BSイレブン 志位委員長が語る
日本共産党の志位和夫委員長は6日夜放送のBSイレブンの政治番組「インサイド・アウト」に出演し、文字通り本番のたたかいに突入している総選挙情勢や日本共産党の政策、とくに核兵器廃絶の課題や、暮らし・福祉の財源論などについて45分間にわたって語りました。キャスターは、BSイレブン報道局長の鈴木哲夫氏、毎日新聞論説委員の松田喬和氏です。
遊説での強い反応――国民は自公政権後の日本の進路に強い関心
番組は、松田氏の「二大政党の中で共産党が独自カラーをどう出してくるか大変興味があります。オバマ米大統領への手紙など核問題などで独自姿勢を出し始めているわけで、国民にどう評価されてくるのか。注目点です」という言葉で始まりました。
全国遊説に駆け巡る志位氏。鈴木氏の「街頭の反応は」との問いかけに、志位氏は「これまでになく深い、強い反応が返ってきます。若い方も足を止めてくれます」と笑顔で応じ、次のように述べました。
志位 話すなかで(聴衆が)膨れてくる状況がどこでも起こっています。自公政権に退場してほしいという声が圧倒的な流れだと感じています。私たちは、まずは今度の選挙では、自公政権に「さようなら」の審判を下すことが大事だと訴え、同時に、自公政権が退場した後の日本をどうしていくのかと訴えていますが、国民の関心はそちらに移りつつあるように感じます。どういう日本にするのかということを、いろいろな角度から訴えますと、そこの反応がまた強いんですね。
7月の東京都議選結果について、志位氏は、議席を減らしたのは残念だったが、2007年の参院選の比例代表での東京の得票55万票から71万票まで押し返したことをあげ、「国政選挙の前哨戦的な選挙になったたたかいで、得票で押し戻したというのは、次につながります」と述べると、松田氏も「それだけもち返しているわけですから、(国政選挙の)先行指標としては悪くはないですね」と応じました。
鈴木氏は、日本共産党が300小選挙区にすべて候補を立てなかった方針について、「民主党に有利になるのでは」と質問。志位氏は「立てないところは自主投票です。逆に言えば、小選挙区を擁立しないところは、(小選挙区で)自民党に投票する方も、民主党に投票する方も、どこにも投票先はないという方も、すべて『比例は日本共産党へ』と訴えています」と説明すると、鈴木、松田両氏は「なるほど」とうなずきました。
日米FTA問題――農村での激しい怒りを実感
民主党への対応を問われた志位氏は、「日米FTA(自由貿易協定)締結」と明記した民主党のマニフェストについて、次のように語りました。
志位 この方針は、いま農民のなかでたいへんな怒りです。「日米FTA(自由貿易協定)締結」をマニフェストに書き込んでしまった。これは農村地域に行くと、怨嗟(えんさ)の的になっています。日米FTAを結ぶとなると、どうしても農業とコメが中心になるんです。自由化となると、ある試算では日本のコメの82%がつぶされる。残るのは18%だけです。その日米FTAを「締結」と書いてしまったんですね。
鈴木 反発が相当ありますね。
志位 ものすごい反発です。いま民主党は、あわてて「農家の方々に迷惑がかからないようにする」といっていますが、日米FTAの交渉に入ってしまったら、農業が犠牲になることは避けがたいことです。農業とコメ抜きの日米FTAはありえない。きっぱり中止することが必要です。私たちは絶対反対です。
鈴木 すると自民党のほうに(票が)行っちゃうかもしれない。
志位 この問題で、自民党は民主党を攻撃しているんですが、私は自民党にも言いたい。自民党は日豪EPA(経済連携協定)をいま交渉中ですが、これは畜産などをめちゃくちゃにするわけです。これまで牛肉、オレンジから始まり、ミニマムアクセス米を入れて、汚染米問題を引き起こし、日本の農業を自由化でめちゃくちゃにしてきたのは、自公政権です。日豪EPA交渉を中止し、これまでの反省をすることが必要ですね。
日本農業を立て直そうと思ったら、日本共産党が言っているように、農産物の価格保障、所得補償をしっかりやる。そして歯止めのない輸入自由化はストップする。そのために食料主権にたった貿易のルールをちゃんとつくる。そういう私たちの主張が農村部でたいへん深く共感を得ていると感じています。
松田氏が「FTAを含め、麻生さんにかぶせられた『ブレる』ということが民主党に来ていますね」と問いかけたのにたいし、志位氏の答えは―。
志位 日米FTA締結という問題は、(民主党のマニフェストの)「外交」の項目に入っています。インド洋への自衛隊派兵の問題も、即時撤退からの変更がありました。あるいは「非核三原則」から後退するような発言がおこるなど、いろいろな動きが起こっている。その根っこを考えますと、やはり日米軍事同盟体制は絶対に守るというところからきていますね。
核兵器廃絶をめぐる世界の変化――被爆国の日本で何がいま必要か
「その日米同盟、もっと広く言えば外交で共産党はどういう訴えをしていくのでしょうか?」との鈴木氏の質問で、話は外交問題にすすみました。
志位氏は「日米軍事同盟の問題が、日本の政治のゆがみの一番の根本にあります」とした上で、「世界をリアルに見てみますと、いま大きく変わりつつあります。その変化はイラク戦争で大失敗したアメリカにまで及んでいます」と述べました。
とくに志位氏は、4月にプラハで、核兵器廃絶を世界に呼びかけたオバマ大統領の演説の意義を強調。「広島・長崎に原爆を投下したことで、たくさんの米軍将兵の命が救われたという神話がいまだに広く言われている国の大統領が、あそこまで踏み込んだ発言をするのは、相当な勇気が必要だったと思います」と語った志位氏は、オバマ大統領に演説を歓迎する書簡を送り、相手から心のこもった返書が届いたいきさつを語ったうえで、次のように述べました。
志位 アメリカも変化の過程にあると思います。いまオバマ大統領が、あきらかに前向きの一歩を踏み出した。そのときに被爆国の日本がどういう対応をするかが問われているわけです。私は背中を押す必要があると思う。さらに勇気を持ってこの道を進んでほしい、ということを言うのが被爆国の政治の責任だと思います。
ところが、それを今の自公政権はまったくやろうとしません。私は、逆のことをやっていると思うんですよ。もっぱらアメリカにいっているのは、「核の傘」の依存を執拗(しつよう)に求めることです。「核の傘」というのは、自分の核は持たないけれども、他人の核で脅してもらう、他人の核をいざとなったら使ってくれという考えです。米国の「核の傘」から離脱して、名実ともに「非核の日本」になるということが大切で、そうしてこそ本当に核兵器のない世界へのイニシアチブを被爆国として発揮できると思います。
北朝鮮との関係でも、北朝鮮に核兵器を捨てろといううえで、やはり「非核の日本」になってこそ、それを言う一番強い立場を日本は取れるわけです。核による脅しで相手を押さえ込む、いざとなったら核を使うという「核抑止」の考え方でやりますと、核兵器を向けられた相手は、同じ論理で核を持とうとする。だから、この考えは核拡散の元凶にもなるんです。核兵器廃絶を本気で追求しようというならば、捨てなければならない論理だと思います。
松田氏は「志位さんの論理は全くその通りだと思うのですが、実際に北朝鮮の脅威を考えると、『核の傘』を捨てて大丈夫かしらとなると思うのです」と述べました。それに対して志位氏はつぎのように答えました。
志位 北朝鮮の核兵器を捨てさせようと思った場合、どの国も軍事オプション(選択肢)を考えていないでしょう。アメリカも外交的な対話のルートを探ろうという模索が始まっている段階です。外交的に、対話によって、いかにして北朝鮮に核兵器を捨てさせるか、そのための国際的な包囲網をどうつくるかが大切です。その点では、私は、核兵器廃絶、核のない世界というところに世界中が向かう流れが強まることが、北朝鮮に対して本当の意味での圧力になると思います。その大局観がいま大事ではないでしょうか。相手が核を持った。じゃあこっちも『核の傘』をもっと強化しよう。軍事で身構えてミサイルを並べましょう。そういうことをやったら危険な核軍拡のエスカレートになってしまいます。その発想を転換することが大切ではないでしょうか。
鈴木 そのプロセスとしてはどういうことになりますか。
志位 私は6カ国協議をあきらめるべきではないと強調しているんです。6カ国協議はもう終わった、無力だ、という議論がありますが、一番合理的な枠組みです。北東アジアの平和と安定に関係するすべての当事国が参加する枠組みはこれしかありません。困難はあっても、ここに戻る粘り強い努力をする必要があると思います。
財源論が試金石――大企業にものがいえる党でこそ
話題は、雇用・子育て・社会保障などの問題に移り、鈴木氏は「各党のマニフェストを見ると、子育て支援とか雇用とかにお金をつけると。財源問題も議論になるなか、共産党としては、生活者のためになにをやるのですか」と尋ねました。
志位氏は「日本は、同じ資本主義国でも、国民の暮らしや権利を守るルールがない『ルールなき資本主義』といわれています。ここを大本からただし、暮らしと権利を守る『ルールある経済社会』をつくろう、ヨーロッパで当たり前になっているようなルールを日本でもつくっていこうということです」と述べました。欧州諸国では、非正規雇用を全労働者の1割程度に抑えていること、最低賃金も日本の水準よりはるかに高いこと、長時間労働の法的規制もおこなわれていることをあげ、人間らしい労働のルールをつくろうと力説。また、社会保障では、世界に類のない後期高齢者医療制度の廃止や、通院・入院とも自己負担3割という主要国では他に例をみない重すぎる医療費窓口負担を、多くの欧州諸国がおこなっているような無料をめざしてその第一歩を踏み出すなど、総選挙政策を詳しく説明しました。その上で、財源論について次のように語りました。
志位 暮らしの問題は、「じゃあ財源はどうするのか」というところに争点の中心がくるんです。各党とも、それぞれメニューを出していますけれど、財源をどうするのか。私たちは、消費税増税は絶対反対だという立場です。無駄遣いの一掃という点では、年間5兆円の軍事費に切り込むかどうか。もう一つの歳入という点では、大企業・大資産家に7兆円もの減税をばらまいてきたことをただすかどうか。この二つに切り込むかどうかがカギです。それを中心にしながら、私たちの政策では、歳出・歳入改革で12兆円の財源をつくれる。これを暮らしを良くするためにあてようと責任ある財源論を示しています。軍事費と大企業優遇に切り込まないと、結局は消費税増税ということになっていく。そこが大きな争点になっていくと思います。
鈴木 なるほど。やっぱり共産党の財源論の一つの個性というのは、軍事費と、いまおっしゃったお金持ちとか大企業の法人税を含めたところからお金をとろうと。個性がありませんか。
松田 そうですね。そこはだいぶ違うところでしょうね。セーフティーネットを、よりきちっとしたものに、というのも大きな違いでもあるんですが、財源論が共産党の特徴ではないですか。
志位 大金持ちと大企業に応分の負担を、というのは世界の流れになっているところがいま面白いところです。アメリカのオバマ政権がやろうとしているのは、向こう10年間で、富裕層にたいする増税を100兆円やるというんです。それから多国籍企業にたいする増税を20兆円やる。あわせて120兆円です。これを財源に、医療保険と庶民減税に使うというんです。
鈴木 大激論、大反発を招いていますね。
志位 大変な抵抗があると思うんですけれども、これはまともな方向です。世界全体がそういう方向になっている。世界経済危機のなかで、庶民の暮らしを守ろうというところにきているわけですよ。そして大金持ちや大企業・多国籍企業には応分の負担をしてもらおうと。ヨーロッパでも消費税減税という話になっています。大企業と大金持ちにきちんと負担を求められるかどうかが、最大の試金石だと思うんです。
これを求めるとなると企業・団体献金をもらっている党ではいえません。私たちはもらっていませんから、やはりそこが共産党の独自の立場だと思います。
「建設的野党」をのばすことがますます重要になってくる
「そこが最大の個性、非常によくわかりました」と鈴木氏。「気になるのは、政権交代が一つの焦点になるなかで、共産党が民主党などとどう足並みをそろえたり距離を置いたりするのか。共産党のポジションはかなり重要になってくるのでは」と述べ、松田氏も「重要になってくると思いますね。民主党が衆院選で仮に勝ったとしても、参院は過半数にいかないわけですから、非常に政治というのが流動化してくる。そんななか共産党がオバマさんの核廃絶演説に着目して、そこで機敏に行動をとるというのは、やはり変わってきた」と感想を述べました。志位氏は次の発言で締めくくりました。
志位 総選挙の結果は、おそらく民主党中心の政権ができる可能性が高いと思っています。私たちが参画する民主連合政府がすぐにできれば一番いいんですけれども、まだそこまで熟していませんから。そのとき私たちは国民の立場に立って、個別の問題でどんどん積極的に提言していこうと思うんです。協力できる点については個別に協力もする。そして、間違った動き――日米FTA、憲法問題、消費税問題、比例定数を削減する――などが具体化されたら「防波堤」として食い止める。つまり、国民の立場に立って積極的にどんどん提案をし、良いものには協力、悪いものにはきっぱり反対という「建設的野党」としてがんばる。同時に政治を大本から変えて、「国民が主人公」の日本をつくるためにがんばるという仕事にとりくみたいと思います。
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