2009年8月5日(水)「しんぶん赤旗」
安保防衛懇の報告書
「専守防衛」をなげ捨て「戦争する国」への集大成
米国の一国覇権主義が破たんし、軍事よりも外交の比重が高まっている国際情勢下での「安全保障戦略」とは何なのか。
政府の「安全保障と防衛力に関する懇談会」が4日にまとめた報告書は序章で、「安全保障戦略」の具体的な手段として「防衛力だけでなく、外交力、経済力、文化交流などさまざまな方法」が必要だとしています。
日米同盟に固執
米国の一国覇権主義を全面的に肯定した5年前の報告書とは一変して、「米国の力に変化がみられる一方で、1国だけでは解決し得ず国際協力を必要とする多岐にわたる問題が増えている」と指摘。1990年代以後、圧倒的な力を誇示してきた米国の地位低下と国際協調の重要性を認めました。
しかし報告書は、米国の力の低下が顕著であるがゆえに、逆に日米軍事同盟にますますしがみつき、同盟関係における日本の軍事的な役割・任務をいっそう高めようと主張しています。
来年に締結50年を迎える現行日米安保条約に触れ、「同盟の次の半世紀」を主張。米軍「思いやり」予算や、核兵器を含む脅しの戦略である米国の「拡大抑止」を維持する考えを示しています。
同時に、(1)海外派兵を新たな段階に引き上げる=派兵恒久法の制定、自衛隊の継続的な派兵体制の整備、PKO(国連平和維持活動)の拡大(2)「日本の安全確保」における軍事分担を拡大する=集団的自衛権の行使、米国の打撃力を補完する形での「敵基地攻撃能力」保有の検討―など、軍事力ばかりが突出した「安全保障戦略」となっています。
諸原則に否定的
重大なのは、これまで政府が軍事力の保持を禁じた憲法9条と自衛隊の存在との整合性を保つためにつくってきた諸原則―「専守防衛」「軍事大国にならない」「文民統制」「非核三原則」に、根本的な疑義を投げかけていることです。
報告書は、これらについて「…をしない」という否定形で「日本の防衛政策に歯止めをかける意義を持ってきた」とする一方、「『日本は何をするのか』についての十分な説明をするものではない」と指摘。とりわけ専守防衛について、「受動的な防衛戦略の姿勢」であると否定的な見方を示しています。
憲法は日本の軍事的な役割を拡大する上での障害でしかない、という発想が報告書の根底にあることがうかがえます。
冒頭に述べたような軍事よりも外交の比重が高まった国際環境においては、むしろ憲法9条に基づく平和外交・国際貢献で世界を引っ張ることこそ、日本に求められている戦略です。
今回の報告書に盛り込まれた軍事政策の大転換―集団的自衛権の行使、派兵恒久法、武器輸出三原則の見直しなどは、いずれも自公政権下で具体的な検討が始まったものです。報告書は「海外で戦争する国」づくりを進めた自公政権のいわば集大成とも言える物です。総選挙後の新政権がどう受けとめるのかが、問われます。(竹下岳)
「安全保障と防衛力に関する懇談会」 政府が年末に改定する「防衛計画の大綱」に向けた報告書を提出するため、外務省・防衛省の元高官や研究者などで構成された会合。1976年に決定された防衛大綱はこれまで94年、2004年に改定されましたが、そのたびに同様の懇談会が開かれ、報告書を提出してきました。
世界の流れに逆行 志位氏
日本共産党の志位和夫委員長は4日、東京都内で記者会見し、記者団から「安全保障と防衛力に関する懇談会」が取りまとめた報告書について問われ、「武器輸出三原則を緩和し、集団的自衛権に踏み込む(報告書の)動きは、いまの世界の流れをおよそ見ていないもので、私たちはもちろん反対です」と述べました。
志位氏は「もめごとが起こったときに平和的な話し合いで解決することが、いまの世界の圧倒的な流れになっている」と指摘。「そういう時代にあって(日本が)きな臭いところにだけ熱中するのは、この世界の流れの逆行以外のなにものでもない」と強調しました。
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