2009年7月9日(木)「しんぶん赤旗」
主張
貨物検査特措法案
現行法の枠内で対応すべきだ
政府は、北朝鮮を出入りする船舶の貨物を公海上でも検査できる権限を海上保安庁に付与するとともに、自衛隊も動員できる「貨物検査特別措置法案」を決定し、国会に提出しました。
法案は、国連安全保障理事会決議1874が貨物検査を実施するよう要請していることを根拠にしています。しかし、決議は「非軍事的な措置」を明記し、北朝鮮問題の平和的、政治的解決を求めたものです。自衛隊動員の根拠にすべきではありません。現行法の枠内で港湾・空港、領海で貨物検査をしっかり行うことこそ、安保理決議の要請にこたえる道です。
安保理は平和的解決で
北朝鮮が5月に行った核実験は、安保理決議1718(2006年)や、自ら認めた6カ国協議共同声明(05年)にさえ違反した暴挙です。北朝鮮に強く抗議した安保理決議1874は、国際社会の一致した意思です。
安保理決議は、軍事的対応とは無縁です。決議は、北朝鮮に対する措置について、国連憲章41条にもとづく措置と明記し、「事態を平和的、外交的、政治的に解決することを誓約」するとのべています。緊張を悪化させる「あらゆる行動を慎む」とものべています。政府は決議が軍事対応をいましめていることを直視すべきです。
特措法案は、公海上での貨物検査は海上保安庁が行うとしながら、「特別の事情がある場合」は自衛隊が「所要の措置をとる」としています。「強力な武器で抵抗しようとしてきた場合」(与党プロジェクト・チーム)に備えるというのです。北朝鮮が軍事的挑発をしているからといって、日本が軍事的に対応すれば、軍事的緊張を強めるだけです。これでは平和的解決を困難にするだけです。
安保理決議は船舶が所属する旗国や船長が検査に同意しない場合でも軍事的に対応することを認めていません。旗国が同意しない場合は、国連加盟国が国連に「報告」するよう義務付けているだけです。武器使用による抵抗が考えられるような貨物検査はそもそも許されていないのです。「軍事対軍事」は危険を生むだけです。
いま日本がやるべきことは、現行法の枠内で貨物検査を徹底することです。海上保安庁は領海や港湾で必要に応じて乗船して貨物検査ができます。陸上では税関が検査できます。外国船舶などは日本の検査を拒絶することはできません。こうした措置を実施することこそ安保理決議の要請にこたえる道です。
北朝鮮の核開発をやめさせるために何より重要なのは、国際社会の一致した対応です。世界各国が一致して、領海や港湾などで貨物検査を徹底して実施すれば、決議違反の行為を封じ込めることができるのは明らかです。日本政府はそのための外交的努力にもっと力をいれるべきです。
派兵の日常化許さない
政府・与党が現行法の枠内でできることをやらずに新法をつくろうとしているのは、自衛隊の国外での活動を日常化する狙いがあるからです。民主党の鳩山由紀夫代表が法案に「基本的に賛成」といっているのも同じです。
憲法9条を守り、海外派兵恒久法強化のくわだてを阻止するためにも、貨物検査特措法案を撤回させることが重要です。
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