2009年6月22日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
シカ激増 食害拡大
農作物被害47億円 共生へ対策は急務
全国各地でシカの食害が広がっています。里山では農作物、牧草地の被害、奥山ではブナ林などの樹皮食い、高山植物の危機などが進行。山の土壌が侵食され、流出の原因にもなり、生態系にも強い影響がでています。シカの食害は農作物だけでも約47億円の被害額(農水省調べ)がでており、北海道から九州まで37都道府県に拡大しています。その実態について高知県と神奈川県から報告します。
効果的管理へ 4県の連携
高知
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総延長1200キロ―。高知県にシカやイノシシの侵入を防ぐために設置された防護柵の長さです。高知―東京間が600キロ余りですので、その長さが分かります。それでもシカによる農林産物の被害は増え続けています。
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シカによる被害が出始めたのは、1990年代の中ごろから。07年度の被害額は1億2千万円。被害面積は1054ヘクタールに及んでいます。県鳥獣対策課は、「被害の実態把握は困難で、実際は数倍から十数倍になるだろう」と言います。
温暖化で子ジカの生存率が高くなったこと、森林の荒廃や山村の荒廃地が広がったことなどがシカの増えた原因です。国が、長く雌シカの捕獲制限などをしてきたことも数を増やす結果になりました。県は4万7000頭いるとみています。
徳島県と境を接する香美市では98年ごろから被害が多くなりました。シカは、特産のユズや植林の皮はぎ、新芽をかじるほか、野菜類やタケノコ、水稲を食べるなど年間を通じて多方面の被害が出ています。近年、増えすぎたシカによってササ原が食べ尽くされ、はげ山になり、大雨で表土が流出して、川を汚しています。貴重な高山植物が食べられるなど、生態系や自然環境に甚大な被害を与えています。
香美市林政課では「毎年8キロ以上の防護柵を設置しているが、根本的な解決には頭数を減らす以外ない。被害の多い山間部では、植林や農業をあきらめる人がでることを心配している」と語ります。
県は、現在頭数を12年度までに人間とシカが共生できる9200頭までに減らす計画で、08年度から始まった「第2期特定獣(シカ)保護管理計画」にある年間捕獲頭数を上向きに見直す作業を始めています。
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長年森林保護に携わってきた山崎三郎・元森林総合研究所四国支所研究員は、環境対策からもシカ問題は大事と指摘し、「森林の二酸化炭素(CO2)吸収効果が見直されていますが、バランスのとれた森林の生態系を維持するには、立ち木の管理だけでなく、シカや動物の生息密度の管理も必要です」と言います。
ただ、個体数管理には困難な問題もあります。シカは広範囲に移動するため市町村や県単独の取り組みでは限界があることや、個体数管理に当たる狩猟者には1頭5千〜1万円の報償金が出ますが、銃の管理や猟犬の飼育など費用がかかり、ボランティアでやっている状態。高齢化で人数が減っています。
日本共産党の笹岡まさる衆院四国比例予定候補は、4県で被害調査をおこない、(1)四国4県が連携して情報を共有する(2)生態調査をして正確で効果的な個体管理をおこなう、などの提言をもって4県の担当者と懇談しています。(高知県・窪田和教)
中山間地の振興・再生こそ
神奈川
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神奈川県の屋根とよばれる丹沢(たんざわ)山地は、県面積の6分1を占めています。丹沢の「丹(タン)」は「谷」を意味し、山にも谷にもシカが多くみられます。
シカの頭数は1970年の推計1700頭から、現在は県の調査によれば3700〜4500頭と推計され、急速に増えています。
シカの食害は造林地でスギ、ヒノキなどの苗木を食べる林業被害と里地での農作物被害です。県の農林業被害額は約1758万円(07年度)にのぼっています。シカは地球温暖化で冬の積雪が減ったことや狩猟者の減少・高齢化、森林の荒廃が広がったことなどで増えてきました。
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20年間、自然保護活動を続ける丹沢ブナ党代表の梶谷敏夫さん(55)は指摘します。
「シカは人工林地帯(標高おおむね300〜800メートル)から柵で締め出され、山頂部と里山で生きざるを得ない。丹沢ではブナ林の立ち枯れに加え、シカが下層植生を食い尽くし、樹皮食いにまで及んでいる。シカが中腹の人工林でも生息できるように生息域管理をすることがカギです」
山梨、静岡と県境を接する山北町(西丹沢)でもシカが増えています。同町は横浜、相模原に次ぐ広さで9割が森林地域です。
同町共和地区の男性(76)は、兼業農家。自宅の裏山からシカが出てきます。
男性は「漆の苗木800本が2メートル近く育ったところで全滅し、キリも300本食べられた。いまは放棄地です。ネギ、ハクサイなどを守ろうとシカよけネットを張った」と話します。
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地域の世話役をする池田勝義さん(78)。日本共産党の元町議です。「シカとならんでイノシシの被害も深刻です。ネットの下部を補強したのがイノシシ用です。対策に県、国は支援を強めてほしい」と池田さんは説明します。
山北町内の県立大野山乳牛育成牧場の周辺にもシカがときどきあらわれます。
シカは1日に5〜6キロの植物を食べ、昼夜を問わず採食する大食漢。数頭の群れで行動します。
神奈川県は現在、丹沢山地の失われた自然環境を取り戻そうと「丹沢大山自然再生計画」(2007〜11年度)を進めています。
シカについては、「第2次神奈川県ニホンジカ保護管理計画」で増えすぎたシカを減らす計画。丹沢でシカを絶滅させないため、11年度までに約1500頭を下回らないとする試算をだしています。「管理捕獲」を知らせる赤いノボリを立て、実施しています。
野生動物保護管理事務所代表の羽澄俊裕さん(54)は、「シカも生物多様性の一要素で人間と共生できる」との視点が大事と言います。羽澄さんは、当面保護柵の必要性を指摘し、「中山間地での農業と林業を振興・再生することがいまこそ必要です。経済的理由だけで人工林を放置してはならない。人工林を伐採して活用する試みや、森林管理などの仕事で雇用の創出になる」と強調します。(小高平男)
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