2009年6月18日(木)「しんぶん赤旗」
主張
「海賊対処」派兵
憲法違反の法案成立許さない
参議院は今日の外交防衛委員会と19日に開く予定の本会議で、「海賊対処」を名目にアフリカのソマリア沖に派遣している自衛隊に、日本以外の外国船舶の護衛と歯止めのない武器使用を認める「海賊対処」派兵法案を採決します。
政府は参議院で、自衛隊による他国民殺傷や使用武器に制約がないことを認めています。自民・公明の与党は、参議院で否決されても衆議院本会議で再議決を強行し、数の力で法案の成立を狙っています。憲法違反の悪法は廃案にするしかありません。もともと「海賊対処」の派兵を提案した民主党の責任も改めて問われます。
使用武器の制約もない
法案は自衛隊への攻撃がなくても、「他の船舶に著しく接近」し、「つきまとい」「進行を妨げる」「海賊」に発砲することを認めています。攻撃されてもいないのに発砲するのは正当防衛とはいえません。正当防衛でない以上、「憲法9条の禁ずる武力行使に該当することがないといいきれない」(2001年12月6日参院外交防衛委員会、津野修内閣法制局長官)ことになります。どういいつくろおうと憲法違反の武力行使です。
使用される武器に制約のないことも政府答弁で明らかになりました。護衛艦は1分間に40発もの砲弾を撃てる速射砲や12・7ミリの機関銃、対艦ミサイル、魚雷などを装備しています。法案成立後に防衛相がつくる「対処要綱」に護衛艦やP3Cなどを派遣すると書きさえすれば、これらの武器が使用できるようになります。
護衛艦搭載ヘリコプターの機関銃使用やジブチを拠点に活動するP3C対潜哨戒機の「海賊」船への爆弾投下も可能になります。
自衛隊が武器を使えば、他国民を殺傷し、船を撃沈させるのは避けられません。浜田靖一防衛相は「殺傷する可能性が高いといえば、そういうふうになるかもしれない」と日本共産党の井上哲士議員の質問に答えています。(4日の参議院外交防衛委員会)
自衛隊はこれまで海外で直接他国民を殺傷したことはありません。憲法9条が歯止めになってきたのです。しかし法案が成立すれば、自衛隊が初めて海外で他国民を殺傷することになりかねません。
しかも金子一義国土交通相は、法案が「恒久法」であり、海賊の「危機がなくなるまで」活動を続けるといいました(4日の参院外交防衛委員会)。これは重大です。「海賊対処」を突破口に、海外派兵恒久法の制定や憲法改悪につなげて、あわよくばそのまま、本格的な海外での武力行使に道を開くおそれは否定できません。
必要なのは外交的努力
ソマリア沖では多くの軍艦がでているにもかかわらず、「海賊」は逆に増えています。「海賊」は軍事だけではなくせないことを示しています。国連開発計画(UNDP)のデズモンド・ジョン・マロイ武装解除・動員解除・社会復帰担当シニア・アドバイザーも、参議院外交防衛委員会で、軍事は「効果がない」「アプローチを切り替えるべきだ」と陳述しました。
ソマリアの復興をめざす国際協力を主導し、ソマリア周辺諸国の沿岸警備能力強化を支援することこそ、憲法9条をもつ日本の役割です。政府と与党は「海賊対処」派兵法案の成立を断念し、政治的、外交的な役割に徹すべきです。